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『あやかしの肌』・・・第七章

     『あやかしの肌』
第七章
ネット小説ランキング>【R18官能部門】>あやかしの肌

毎朝挨拶する近所の女学生が、まだ青いつぼみの乳房を揺らして髪を洗っている。
愛らしい煙草屋の看板娘は、今夜彼氏とデートなのか、大股を開いて陰部を洗うのに忙しい。
友人の女房も銭湯へやって来る。

「あら、タッちゃん。うちの宿六、将棋の相手がいなくて寂しがっていたわよ。明日でも家へ遊びに来てよ」

親しい大工の若女房に至っては、乳房や恥毛を隠そうともせず、辰二を見つけて駆け寄って来る始末だった。
大工の棟梁とは、将棋が昂ずると、時に夕食まで呼ばれるつきあいをしている。

その友人が夜な夜な愛でる若女房の秘肉が、開けっ広げに辰二の眼前で晒されているのだ。
まるで二人の情事を屋根裏から覗くような感覚に近かった。

だが誰も辰二を男として意識しない。
むろん職業柄とは言え、銭湯へ来る女達にとって、三助は性を失った宦官にしか映らないのだろう。
辰二は八百屋の老婆に声をかけた。

「お待たせしました」

辰二は垢すりに石鹸をつけると、力を入れて染みだけの背中を擦り始めた。

「今日はいい湯加減だわ。竹の湯はやっぱりタッちゃんがいないと駄目だねえ」

擦って赤く腫れた背中へザッと熱い湯をかけると、老婆の肩に手拭いを掛けてグイグイとツボを押していく。

「ああ、極楽極楽・・」

パンパンパンと窪めた掌で肌を叩く音が、天井の高い浴室の大空間に響き渡った。
つづく・・・

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『あやかしの肌』・・・第六章

     『あやかしの肌』
第六章
ネット小説ランキング>【R18官能部門】>あやかしの肌

盛吉は五十一歳、辰二にとっては遠い親戚にあたる。
戦後、大陸から引き揚げてきた辰二は、仕事のない田舎へは戻らず、銭湯を経営する盛吉を頼って東京へ出て来た。

以来十五年、辰二は住み込みで懸命に働き、盛吉からも信頼されて三助を任せられていた。
営業が始まった。
さらしと半股引姿になった辰二は、覘き穴から浴室の様子を窺いつつ、釜場で湯加減の調整を始めた。

ブザーが鳴った。
番台の盛吉が流しの客が入ったことを伝えてきたのだ。

流しとは、背中の垢すりとマッサージするサービスで、三助にとって重要な技術の一つだった。
流しを頼む客は番台で料金を払って木札を受け取る。
その木札を目印に、頃合いを見計らって三助がやって来るのだ。

客は昼間会った八百屋の老婆だった。
三助に男も女もない。
ヘチマの垢すりと木桶を持って、辰二は釜場から女湯へ入って行った。

女湯。
男なら誰しも憧れる楽園である。
その期待に違わず、白いタイルに閉ざされた禁裏では、女達が惜しげもなく一糸まとわぬ裸身を曝していた。

江戸時代に混浴が禁じられて以来、男達は女湯に肉林の妄想を募らせてきた。
その桃源郷を司る三助は、いつの世も男達から密かな嫉妬の眼で見られた。

ただ女の裸を見たいだけなら、淫猥雑誌の写真やストリップ劇場へ行けばいい。
三助への羨望は、日頃顔見知りの女の裸体を拝めるところにあるのだ。
つづく・・・

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『あやかしの肌』・・・第五章

     『あやかしの肌』
第五章
ネット小説ランキング>【R18官能部門】>あやかしの肌

辰二は三十七歳、神田の銭湯『竹の湯』で三助をしている。
そもそも三助の由来は、釜焚きと番台、そして流しという三つの仕事をこなすからだと言われている。

三助は主人に次ぐ番頭格の地位で、勤め上げた者には、新たな銭湯をのれん分けできる資格が与えられる。
午後三時の営業時間前で、破風と呼ばれる曲線の庇を正面に据えた入り口に、まだのれんはかかっていなかった。

辰二は硝子戸を開けた。
左右に木札鍵の下駄箱が並び、その先に男湯と女湯ののれんがかかっている。
男湯から中へ入ると、女湯との境に番台があり、磨き上げられた板床の広い脱衣所が見渡せた。 

高い天井からぶら下がる大きな扇風機。
女湯との仕切りに嵌められた大鏡。
片隅に積み上げられた脱衣籠。
フルーツ牛乳やコーヒー牛乳が並ぶ冷蔵ショーケース。

正面ガラス戸の向こうが、富士山のペンキ絵が描かれた大きな浴室になっている。
白いタイル貼りの空間には、赤青の温水と冷水が出る蛇口が六列並び、深浅二つの浴槽が奥に設えてあった。
主人の飯島盛吉がペンキ絵の裏にある釜場から出て来た。

「ただいま戻りました」

「おうタツか、お帰り。久しぶりの田舎はどうだった?」

「ええ、兄貴は元気そうでした。三日も休みを頂いてご迷惑をおかけしました」

辰二は丁寧に挨拶しながら、そっと浴槽に手を入れて湯加減をみた。
八百屋の老婆が愚痴をこぼした通り、薪をけちっているのかややぬるかった。
つづく・・・

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『あやかしの肌』・・・第四章

     『あやかしの肌』
第四章
ネット小説ランキング>【R18官能部門】>あやかしの肌

神田川を見下ろす中央線お茶の水駅は、炎天下にもかかわらず、背広に身を包んだサラリーマンで混み合っていた。
田舎の信州へ帰っていた吉井辰二は、三日ぶりとなる都会の喧騒に眩暈を感じた。

改札を抜けて、ニコライ堂を右手に幽霊坂を下ると、ごちゃごちゃとした神田の街が眼下に一望できる。
行き交う自動車の排気ガスで、街全体がくすんだ灰色に霞んでいる。

都電が走る大通りは競うようにビルが建て込んできたが、まだ奥まった路地裏には、民家の錆びたトタン屋根が重なり合っていた。

辰二が狭い小道を折れると、軽食堂のラジオから、『アカシアの雨が止む時』が流れて来た。
昭和三十五年。
気だるい夏の午後。

騒然とした安保闘争が終わったこの年、どこかアンニュイな雰囲気を醸すこの曲は、虚脱感に満ちた世相に受け入れられて流行していた。

八百屋で店番をしている老婆が辰二に声をかけてきた。

「お帰りタッちゃん、田舎に帰っていたんだって?」

「済みません、ご隠居。親父の法事で留守をしていました」

「タッちゃん、あんたがいないと竹の湯はつぶれるよ。

あのみみっちい主人ときたら、釜焚きもケチだから、お湯がぬるくて入った気がしやしないよ」

「あはは、わかりました。今日は噛みつくぐらいに湯を熱くしておきます」

辰二は老婆に頭を下げると、畳屋の角を曲がって、高い煙突がそびえる宮型造りの建物へ向かった。
つづく・・・

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紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご挨拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。               
児童文学 『プリン』
  
『プリン』を読む
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、 競走馬の名誉でも栄光でもなかった。ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
『プリン』を読む

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