『あやかしの肌』・・・第四章
『あやかしの肌』
第四章
ネット小説ランキング>【R18官能部門】>あやかしの肌
神田川を見下ろす中央線お茶の水駅は、炎天下にもかかわらず、背広に身を包んだサラリーマンで混み合っていた。
田舎の信州へ帰っていた吉井辰二は、三日ぶりとなる都会の喧騒に眩暈を感じた。
改札を抜けて、ニコライ堂を右手に幽霊坂を下ると、ごちゃごちゃとした神田の街が眼下に一望できる。
行き交う自動車の排気ガスで、街全体がくすんだ灰色に霞んでいる。
都電が走る大通りは競うようにビルが建て込んできたが、まだ奥まった路地裏には、民家の錆びたトタン屋根が重なり合っていた。
辰二が狭い小道を折れると、軽食堂のラジオから、『アカシアの雨が止む時』が流れて来た。
昭和三十五年。
気だるい夏の午後。
騒然とした安保闘争が終わったこの年、どこかアンニュイな雰囲気を醸すこの曲は、虚脱感に満ちた世相に受け入れられて流行していた。
八百屋で店番をしている老婆が辰二に声をかけてきた。
「お帰りタッちゃん、田舎に帰っていたんだって?」
「済みません、ご隠居。親父の法事で留守をしていました」
「タッちゃん、あんたがいないと竹の湯はつぶれるよ。
あのみみっちい主人ときたら、釜焚きもケチだから、お湯がぬるくて入った気がしやしないよ」
「あはは、わかりました。今日は噛みつくぐらいに湯を熱くしておきます」
辰二は老婆に頭を下げると、畳屋の角を曲がって、高い煙突がそびえる宮型造りの建物へ向かった。
つづく・・・
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行き交う自動車の排気ガスで、街全体がくすんだ灰色に霞んでいる。
都電が走る大通りは競うようにビルが建て込んできたが、まだ奥まった路地裏には、民家の錆びたトタン屋根が重なり合っていた。
辰二が狭い小道を折れると、軽食堂のラジオから、『アカシアの雨が止む時』が流れて来た。
昭和三十五年。
気だるい夏の午後。
騒然とした安保闘争が終わったこの年、どこかアンニュイな雰囲気を醸すこの曲は、虚脱感に満ちた世相に受け入れられて流行していた。
八百屋で店番をしている老婆が辰二に声をかけてきた。
「お帰りタッちゃん、田舎に帰っていたんだって?」
「済みません、ご隠居。親父の法事で留守をしていました」
「タッちゃん、あんたがいないと竹の湯はつぶれるよ。
あのみみっちい主人ときたら、釜焚きもケチだから、お湯がぬるくて入った気がしやしないよ」
「あはは、わかりました。今日は噛みつくぐらいに湯を熱くしておきます」
辰二は老婆に頭を下げると、畳屋の角を曲がって、高い煙突がそびえる宮型造りの建物へ向かった。
つづく・・・
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