『あやかしの肌』・・・第九章
『あやかしの肌』
第九章
ネット小説ランキング>【R18官能部門】>あやかしの肌
母の記憶――それは心細いほど微かにしか残っていない。
戦前、尋常小学校へ上がって間もない頃だったろう。
辰二は山奥の農家で生まれ育った。
黒く煤ぼけた大きな生家には、楕円形の古い木桶風呂があった。
冬の夜、割れた磨り硝子の外は、子供の身の丈ほどの雪が降り積もっていた。
ざあっと湯を流す音が反響する。
立ち籠めた湯気に揺らぐランプの灯が滲んでいる。
「体を洗ってやるから出なさい」
すのこの上で立て膝をついた母が、桶にお湯を汲みながら辰二を呼んだ。
よじ登るようにして湯船から出た辰二を、母は前に立たせて手拭いで洗い始めた。
「くすぐったいよ、母ちゃん」
「ほら、男の子なら我慢しなさい」
首筋や脇の下を洗うたび、逃げようとする辰二の手を母は何度も強くつかんだ。
何故かその夜、母はいつもより辰二を隅々まで念入りに洗ってくれた。
むろんその時は何も知らなかった。
だが丁寧に体を洗う母に、良からぬ不安を直感的に抱いていたのかもしれない。
膝小僧を洗うために屈んだ母の背中を、辰二は肩越しにじっと見つめた。
朦々と湧き立つ湯気の中、仄かな桃色を湛えた白い肌が煌めく。
そのむっちりと張りのある肌には、まるで真珠のような湯の飛沫が無数に震えていた。
つづく・・・
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冬の夜、割れた磨り硝子の外は、子供の身の丈ほどの雪が降り積もっていた。
ざあっと湯を流す音が反響する。
立ち籠めた湯気に揺らぐランプの灯が滲んでいる。
「体を洗ってやるから出なさい」
すのこの上で立て膝をついた母が、桶にお湯を汲みながら辰二を呼んだ。
よじ登るようにして湯船から出た辰二を、母は前に立たせて手拭いで洗い始めた。
「くすぐったいよ、母ちゃん」
「ほら、男の子なら我慢しなさい」
首筋や脇の下を洗うたび、逃げようとする辰二の手を母は何度も強くつかんだ。
何故かその夜、母はいつもより辰二を隅々まで念入りに洗ってくれた。
むろんその時は何も知らなかった。
だが丁寧に体を洗う母に、良からぬ不安を直感的に抱いていたのかもしれない。
膝小僧を洗うために屈んだ母の背中を、辰二は肩越しにじっと見つめた。
朦々と湧き立つ湯気の中、仄かな桃色を湛えた白い肌が煌めく。
そのむっちりと張りのある肌には、まるで真珠のような湯の飛沫が無数に震えていた。
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