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『再びの夏』 第二十二章

『再びの夏』(二十二)
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(二十二)

二人はテーブルを挟んで椅子にかけた。
テーブルには赤ワインとグラスが二つ用意されていた。
年代物なのか、渋みのある赤色のワインが注がれる。

「京都の夜に乾杯」

邦彦はグラスを揚げた。
由紀子はフレンチ・キスでもするように、そっとグラスを合わせた。

由紀子と邦彦の関係は今も続いている。
もう二十六年目を迎える。

だが邦彦が住む京都で、こうして会うのは初めてだった。
父親を亡くして会社を継いだ邦彦は、二カ月に一度のペースで東京の支店へ出張する。
東京に滞在している間、時間が許す限り、由紀子は邦彦と密会を重ねてきた。

邦夫に旅行へ行こうと誘われた由紀子は、どうしたらいいか邦彦に相談した。

「それなら京都に来たらいい。同じホテルに僕も泊るようにするから、ご主人が寝たら訪ねておいでよ」

「でも大丈夫かしら…ばれたら…」

「ばれたらばれた時さ。ご主人がぐっすり寝ている間に、間男するのもスリルがあっていいじゃないか」

邦彦は電話で子供っぽく笑うと、宿泊するホテルを確認した。

カーテンを開けた窓からは、闇に沈んだ京都が一望できる。
古、妖怪や鬼が跳梁跋扈した夜の都。
今夜は、由紀子自身が、その怪しい魑魅魍魎に化しているのだと思った。

ワイングラスの向こうに邦彦を見た。
邦彦は四十四歳になっていた。
若かりし日のあどけなさは消え、世間の荒波を泳ぐ経営者として貫禄が滲んでいる。

一人の男の変貌を見続けてきた由紀子には、それが喜びであり、同時に老いさらばえた自分を映す鏡でもあった。

つづく…
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『再びの夏』 第二十一章

『再びの夏』(二十一)
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(二十一)

ホテルのツインルーム。
照明を落とした灰色の闇に、郁夫の高鼾が響き渡る。

(まるで豚の鳴き声だわ)

由紀子は喧しさに思わず耳を覆った。

午後十一時。
祇園からホテルに戻った郁夫は、いい気分で酒に酔い、久しぶりに由紀子を抱くと、そのままベッドで眠りこんでしまった。

(本当におめでたい人)

由紀子は郁夫が羨ましかった。
言いたいことを言い、やりたいことをやる―他人の心情を思い遣らない独り善がりな人間は、きっとストレスなどとは無縁なのだろう。

だが今夜はその方が良かった。
由紀子は浴衣の合わせを整えると、郁夫が熟睡しているのを何度も確認し、鍵を持ってそっと部屋の外へ出た。

胸が高鳴った。
忍び足で廊下を横切り、向かいの部屋のドアをノックした。

細くドアが開いた。

「どうぞ」

その声に促されて部屋に入った。
由紀子の部屋と同じツインルームだ。
背後でガチャとドアの鍵が閉まった。

「いらっしゃい」

部屋の主は邦彦だった。
由紀子は邦彦の胸に飛び込んだ。

「会いたかったわ、あなた」

「ああ、待ち遠しかったよ」

邦彦は優しく由紀子を抱き返した。

つづく…
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『再びの夏』 第十九章

『再びの夏』(十九)
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(十九)

ゴム風船のように張りつめた乳房を愛撫しながら、邦彦はショーツに手をかけた。
由紀子は坑った。

今更隠すものなど何もない関係だが、邦彦に縄の縛めを受け、また別の羞恥を感じたからだった。
邦彦もそんな由紀子の仕草に息を荒くした。

「いやっ!」

ショーツを剥ぎ取られた由紀子は、むっちりと肉付きのいい太腿を強く閉じた。
由紀子の体を知り尽くしている邦彦は、草叢を守る太腿のつけ根にすっと中指を滑り込ませた。

「あん!」

ピンポイントで、花弁に隠れていた快感を催す呼び鈴を押された。
電撃が由紀子の全身を貫き、太腿から力が抜けた。
すかさず邦彦は由紀子の両脚をМ字に開き、両方の膝を椅子の肘掛に結わえつけた。

「いやん、丸見えになっちゃう」

嫌というほど曝してきた淫花だが、別人のような邦彦を前に、羞恥に体が震えた。
邦彦は楽しそうに淫花を弄んだ。

「ほら、滴り落ちるぐらいの大洪水だ」

「恥ずかしい…言わないで…」

邦彦はわざとピチャピチャと音をたて、花芯を指で掻き回す。

「シャワーを浴びたいと言い出したのも、ホテルのロビーで会った時に、もう濡れていたからなんだろう?」

「ああ…そんな…」

「答えるんだ」

指の腹で尖った淫芽をこねくり回され、由紀子は腰が動くのを抑えられなかった。

「は、はい…濡れていました…ああ、許して…」

「いやらしい女だ。しかしよく見ると、ちょっと昔より黒ずんでいるな。僕がいない寂しさで、ご主人とやり過ぎたんじゃないか?」

邦彦は舌先で花弁の縁を辿った。

「はうぅぅ…お、夫とは、ほとんどしていません」

「どうだか。男欲しさに僕以外の男と浮気したかもしれないし」

由紀子は大きく横に首を振った。

「寂しかったわ…でも愛しているのはあなただけよ」

泣きべそをかく由紀子の頭に、邦彦はそっと包むように掌を置いた。

「僕の女は由紀子だけだ」

邦彦はそう耳元で囁くと、乾いた由紀子の口唇を塞いだ。

つづく…
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『再びの夏』 第十八章

『再びの夏』(十八)
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(十八)

巧みな指先がブラジャーを外す。
重みのある乳房が零れ出た。

若い頃の張りはないが、ふるふるとゼリーのように震える豊満な乳房だ。
大学生だった邦彦は、この乳房に顔を埋めるのが好きで、赤ん坊のように吸いついて離さなかった。

由紀子は邦彦の愛撫を待った。
ところが邦彦は何を思ったか、ベッドの脇に置いてある鞄をまさぐり始めた。

「何しているの?」

「さっきも言っただろう。四年間お預けをくわされて変態になったって」

邦彦は黒いロープを手に、にっこりと笑みを浮かべた。
由紀子は戸惑った。

「え、どうするつもりなの?」

「由紀子を縛りたい」

「で、でも…」

「大丈夫だ。痛くしないから」

今まで見たこともないギラギラとした目をしていた。
邦彦は由紀子を椅子に座らせると、背もたれの後ろで両手首を縛った。
そして両の乳房にもロープを交差させて背中に渡し、縛りあげる。

ロープで圧迫された乳房が、縄間から絞り出されるように隆起していた。
ひりひりするほど表面の皮膚が張り、乳首が小指の先ぐらい立っている。

「痛くない?」

「ええ、でも変な感じ…」

邦彦は張りつめた乳房を、下から上へと軽く撫ぜた。

「ああっ!」

由紀子は思わず身をよじった。
縛められて敏感になった乳房が、今までにない強い悦楽の波を全身に送る。
邦彦はにんまりと笑い、尖った乳首を交互に舌先で舐めた。

「ああん…ああ…」

「どう?気持ちいいだろう」

「うん、いいの…でもどこでこんなこと教わったの?」

「自己流だよ。今までずっと由紀子に仕込まれてきたから、これからは僕がいろいろなことを教えてやろうと思ってね」

「仕込まれたなんて酷いわ…奥さんにもこんなことしているの?」

「まさか。あいつとはセックスだってろくにしてないよ」

つづく…
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『再びの夏』 第十七章

『再びの夏』(十七)
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(十七)

昨年、邦彦が両親の勤めで結婚した。
相手は資産家の令嬢で、プロの声楽家だという。

レッスンや公演で多忙な妻に、邦彦はすれ違い夫婦だと電話でこぼした。
そして邦彦は、東京に支店を開設したので、出張ベースで行くから会いたいと切望した。

会いたいのは由紀子も同じだった。
邦彦が結婚したという安堵から、頑なに再会を拒んでいた由紀子も、心の奥の埋み火が再び赤々と熾るのを感じた。

邦彦が常宿する部屋は、少し広めなデラックス・シングルだった。
由紀子はベッドの縁に腰かけた。

「由紀子は全然変わらないね」

「もう三十七歳よ。ほんとのオバサンになっちゃったわ。邦彦は二十六歳になるのね。結婚して、ちょっとは大人になったかしら?」

「結婚しても変わらないよ。気持ちはあの夏の日のままだ」

邦彦は由紀子の隣に座ると、肩を抱いて口唇を重ねてきた。

不意に涙が由紀子の頬を伝った。
四年間の空白を取り戻すように、二人は激しく体を擦り合わせた。

「もう奥さんがいるのに…こんなことしたら…」

「由紀子だってご主人がいるのに、散々僕の体を弄んだじゃないか」

「嫌、弄んだなんて…」

邦彦は由紀子の服を脱がし始めた。

「ねえ、シャワーを浴びたい」

「だめ、久しぶりだから、由紀子の匂いを嗅ぎたいんだ」

「んもう、いつから変態になったの?」

「四年間もお預けさせられていたら、男は皆変態になるよ」

下着を残して裸にされた由紀子は、ベッドの上に横たえられた。
邦彦は由紀子の裸身を見つめた。

「いや、そんなに見つめないで」

「ウエストから太腿にかけて、以前よりむっちりしたんじゃない?」

「…言わないで。確かにちょっと太ったかも…嫌いになった?」

「今のほうがずっといい」

邦彦は口唇を重ねると、軽く由紀子のお尻を撫でた。

由紀子は、社会人になって家庭を持った邦彦が、昔と変わったことに気がついた。
容姿だけでなく、立ち振る舞いや仕草まで、甘えん坊だった邦彦が、大人びて男らしくなっていた。

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『再びの夏』 第十六章

『再びの夏』(十六)
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(十六)

昭和六十年、冬。
灰色の空から牡丹雪がちらちらと舞う寒い朝だった。

郁夫を会社に、英夫を小学校に送り出した由紀子は、精一杯のおしゃれをして、都心にあるホテルのロビーにいた。

スーツ姿の若い男が現れた。

「お久しぶりです」

邦彦だった。

「まあ、立派になったわね」

すっかり社会人らしくなった邦彦を見つめて、由紀子はじんと胸が熱くなった。
初めて由紀子が体を許した夏の日から、邦彦が大学を卒業するまで、二人の密かな情愛は続いた。

郁夫や英夫の目を盗み、由紀子は毎日のように邦彦の部屋を訪れた。
そして時間の許す限り、獣の雌さながらに、若い邦彦の体をむさぼった。

妻であることを忘れ、由紀子は邦彦の逞しい肉茎に狂喜した。
だが邦彦は大学を卒業すると、家業の食料品卸会社を継ぐため、実家へ戻らなければならなかった。

邦彦は帰りたくないと由紀子にすがった。
由紀子も手塩にかけて男にした邦彦を手離したくなかったが、心を鬼にして実家へ帰るよう説得した。

それから四年。
東京へ行くから会いたいと、邦彦から何度も連絡があった。

だが由紀子はその誘いを断り続けた。
夫がいる身である以上、このままずるずるとつき合っても、邦彦を不幸にするだけだと思ったからだ。

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プロフィール

紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご挨拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。               
児童文学 『プリン』
  
『プリン』を読む
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、 競走馬の名誉でも栄光でもなかった。ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
『プリン』を読む

作 品 紹 介
※ 小説を読まれる方へ・・・   更新記事は新着順に表示されますので、小説を最初からお読みになりたい方は、各カテゴリーから選択していただければ、第一章からお読みいただけます。
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