『再びの夏』 最終章
『再びの夏』(二十三)
FC2 R18官能小説
(二十三)
邦彦は、ワインを飲みながら由紀子の話を聞いてくれた。
「ふ〜ん、ご主人が早期退職するの」
「ええ、聞いた途端に目の前が真っ暗になっちゃった」
「まあ、早期退職しなくても、いつかは会社をリタイアする日はくるけどね」
「でもこれから死ぬまで、あの人とずっと一緒にいるのかと思うと地獄よりつらいわ」
由紀子はほうっと大きくため息をついた。
邦彦はしばらく考え込んでいたが、にっこり笑って思いがけないことを言った。
「それなら由紀子も早期退職すれば?」
「え?」
「つまりさ。ご主人の妻としての仕事を、二十年ばかり早めに辞めさせてもらえばいいじゃないか」
「それって熟年離婚しろってこと?それも考えたけど、老後の生活が…」
邦彦はチッチッと舌打ちして指を振った。
「馬鹿だなぁ。早期退職っていうのは、会社の本音はリストラだけど、建前はご主人が言った通り、第二の人生のスタートを早めに切ることだろう」
「でも第二の人生なんて…ないわ」
「鈍いな。つまりご主人と別れて、僕と一緒に暮らそうってプロポーズしているんだよ」
由紀子はポカンとして邦彦を見つめた。
「…だ、だって、あなたにも奥さんがいるじゃない」
「心配しなくていい。いつかこんな日が来るだろうと思って、妻が浮気している証拠を握っているんだ」
「浮気?」
「ああ、結婚した当初から怪しいと思っていたんだが、妻は声楽の師匠にあたる爺さんの妾みたいなものだったんだ。興信所を雇って調べたら、爺さんとホテルの部屋に入る妻の写真を送って来たよ」
「まあ、酷い」
「でもそれはお互い様だろう。もう両親も死んだし、子供もいないから、誰に気兼ねなく離婚できるってわけだ」
邦彦はワインをグラスから飲み干すと、由紀子の手を握った。
「結婚してくれるだろう?」
「で、でも、私、あなたより十一も年上のお婆さんだし…」
「そんなことは二十六年も前からわかっている。今までは日陰で愛し合ってきたけど、残りの人生は日向で一緒に過ごしたい。明日、ご主人に退職届けを出してくれるね?」
「…はい」
涙で邦彦の顔が歪んで見えた。
向いの部屋で熟睡中の郁夫にはすまないが、これから一緒に邦彦と暮らせるという喜びがこみ上げてきた。
邦彦は由紀子をベッドに誘った。
由紀子は、恥じらう新妻のように、邦彦の胸に顔を埋めた。
「ところで、今夜は元亭主に抱かれたの?」
「え?ええ…まあ…」
「僕を裏切って浮気したんだ」
「浮気だなんて…のしかかってきて、勝手に一人でいっちゃっただけよ」
「でも浮気は浮気だ。妻には最初の躾が肝心だ。今夜は厳しいお仕置きをしてやるから覚悟しろよ」
そう笑いながら言うと、邦彦は由紀子の上に覆い被さってきた。
終わり
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(二十三)
邦彦は、ワインを飲みながら由紀子の話を聞いてくれた。
「ふ〜ん、ご主人が早期退職するの」
「ええ、聞いた途端に目の前が真っ暗になっちゃった」
「まあ、早期退職しなくても、いつかは会社をリタイアする日はくるけどね」
「でもこれから死ぬまで、あの人とずっと一緒にいるのかと思うと地獄よりつらいわ」
由紀子はほうっと大きくため息をついた。
邦彦はしばらく考え込んでいたが、にっこり笑って思いがけないことを言った。
「それなら由紀子も早期退職すれば?」
「え?」
「つまりさ。ご主人の妻としての仕事を、二十年ばかり早めに辞めさせてもらえばいいじゃないか」
「それって熟年離婚しろってこと?それも考えたけど、老後の生活が…」
邦彦はチッチッと舌打ちして指を振った。
「馬鹿だなぁ。早期退職っていうのは、会社の本音はリストラだけど、建前はご主人が言った通り、第二の人生のスタートを早めに切ることだろう」
「でも第二の人生なんて…ないわ」
「鈍いな。つまりご主人と別れて、僕と一緒に暮らそうってプロポーズしているんだよ」
由紀子はポカンとして邦彦を見つめた。
「…だ、だって、あなたにも奥さんがいるじゃない」
「心配しなくていい。いつかこんな日が来るだろうと思って、妻が浮気している証拠を握っているんだ」
「浮気?」
「ああ、結婚した当初から怪しいと思っていたんだが、妻は声楽の師匠にあたる爺さんの妾みたいなものだったんだ。興信所を雇って調べたら、爺さんとホテルの部屋に入る妻の写真を送って来たよ」
「まあ、酷い」
「でもそれはお互い様だろう。もう両親も死んだし、子供もいないから、誰に気兼ねなく離婚できるってわけだ」
邦彦はワインをグラスから飲み干すと、由紀子の手を握った。
「結婚してくれるだろう?」
「で、でも、私、あなたより十一も年上のお婆さんだし…」
「そんなことは二十六年も前からわかっている。今までは日陰で愛し合ってきたけど、残りの人生は日向で一緒に過ごしたい。明日、ご主人に退職届けを出してくれるね?」
「…はい」
涙で邦彦の顔が歪んで見えた。
向いの部屋で熟睡中の郁夫にはすまないが、これから一緒に邦彦と暮らせるという喜びがこみ上げてきた。
邦彦は由紀子をベッドに誘った。
由紀子は、恥じらう新妻のように、邦彦の胸に顔を埋めた。
「ところで、今夜は元亭主に抱かれたの?」
「え?ええ…まあ…」
「僕を裏切って浮気したんだ」
「浮気だなんて…のしかかってきて、勝手に一人でいっちゃっただけよ」
「でも浮気は浮気だ。妻には最初の躾が肝心だ。今夜は厳しいお仕置きをしてやるから覚悟しろよ」
そう笑いながら言うと、邦彦は由紀子の上に覆い被さってきた。
終わり






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