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小説「妄想の仮面」 第十九章・・・

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 『妄想の仮面』  紅殻格子
十九.夫の独白(九)
 
細く開いた襖の隙間からは、暗闇に放射する映写機のように、信じられない光景が次々と映し出された。
 
私は震えが止まらなかった。 いや、こうなることは私が望んだのだ。
清川を抱き込んで綿密な計画を立て、ついに願いを成就させる日を、この桟敷席で迎えることができたのだ。
 
(ゆ、由美子・・)
 
今、襖の向こうで妻が浮気している。やらせではない。
良妻賢母の仮面を被っていた由美子が、自分の意思で清川に身を委ねようとしているのだ。
 
清川の巨茎を前に、性奴隷へと身を貶めた由美子は跪いた。
 
「ああ・・」
 
見たこともない凶器を握ったまま、由美子は感嘆ともつかぬ喘ぎ声を上げた。
そして観念したように瞳を閉じると、口を大きく開けて先端からゆっくりと呑み込んだ。
 
私はごくっと喉を鳴らした。
由美子が私以外の男性器をくわえている。青黒い血管が絡んだグロテスクな肉茎が、赤いルージュを引いた口唇の中へ消えていく。太い木杭を顔へ打ち込まれたように、その半ばまで、清川の巨茎が由美子の口を貫いている。
 
「う、んぐぅ・・」
 
清川が由美子の頭を押さえて、巨茎で由美子の口を犯し始めた。由美子も強く吸っているのだろうか、頬の窪みが妙に生々しくエロチックに見える。
 
清川が由美子に命じた。
 
「奥さんのストリップが見たいなあ」
 
「いやよ、私はそんなふしだらな女じゃないわ」
 
「おや、それが田口課長を裏切った奥さんの台詞ですか?」
 
「い、言わないで・・」
 
由美子は躊躇いながら立ち上がると、着ているワンピースを足元に落とした。
 
「主人にも見せたことがないのに・・」
 
くどくど言い訳をしつつも、由美子は後ろ手にブラジャーを外した。
乳房がまた晒された。
すでに清川に吸われている乳首は、愛撫を期待してピンと尖っている。
 
「ほら、下も脱いで」
 
「ああ・・」
 
絶望のため息とともに、由美子は腰を左右に振りながら、清川の前でゆっくりとショーツを下ろした。
 
しっかりと手入れされた恥毛に、私は激しい嫉妬を感じた。
 
(清川のために・・)
 
夫婦間では伸び放題が当たり前の恥毛が、今日の密事を期待して整えられているのだった。これ以上の裏切りがあるだろうか。これほどの屈辱があるだろうか。暗い押入れの中で、私はギリギリと歯噛みすることしかできなかった。
 
全裸の由美子をベッドに押し倒すと、清川は仰向けのまま大きく両脚を開こうとした。
 
「い、いやっ!」
 
ところが由美子は、膝を内側に曲げて急に抗い始めた。
 
「お、奥さん?」
 
「清川君、許して・・やっぱりダメよ、いけないわ・・」
 
「僕が欲しかったんでしょう?」
 
「でも、でも・・」
 
「許しません。今、僕の前にいるのは、田口課長の奥さんではなく、ただの男に飢えた淫らな女です。その証拠に・・」
 
そう言うと、清川は素早く由美子の陰部に手を伸ばした。
 
「ああっ!」
 
ピクッと由美子は体を痙攣させた。
 
「ほら、体は正直ですよ」
 
勝ち誇ったように、清川は中指の先を由美子の鼻先で立てた。
由美子は顔を逸らした。
だが抗っていた両脚は、観念したのか力が抜けて、白光の下で陰部を剥き出しに晒していた。
 
押入れの中で私は呟いた。
 
(・・これが女か)
 
私は呆然としながらも、襖の隙間から目が離せずにいた。
つづく・・・
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小説 「妄想の仮面」 第十八章・・・

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 『妄想の仮面』  紅殻格子
十八.妻の独白(九)
 
寝室の襖をそっと開けました。
ベッドで布団を被っていた清川君は、慌てて上半身を起こしました。
 
「どうかしたんですか、奥さん」
 
「い、いえ・・この部屋もずいぶん散らかっているから・・」
 
男臭い部屋の匂いが、まだ迷っている私の心を否応なく昂ぶらせます。
 
「寝室まで掃除してもらうわけには・・」
 
「だ、大丈夫よ・・要らないものを押入れに片づけるだけだから」
 
私は自分でも何をしているかわからないまま、畳の上に平積みされた雑誌の束を持ち上げようとしました。
 
「そ、それは」
 
清川君は慌ててベッドから飛び降りると、私の肩を両手でダイニングへ押し戻そうとしました。
 
「あっ」
 
その瞬間、私はバランスを右に崩して、清川君にもたれながらベッドへ倒れてしまいました。
 
時が止まりました。
仰向けに倒れた清川君の胸に、私は熱く火照った顔を押し当てました。
 
「ずるい・・私の気持ちを弄んで・・」
 
「お、奥さん」
 
「せっかく二人きりで逢えたのに・・私を独りぼっちにして・・」
 
私は両手で清川君の顔を押さえて、自分から口唇を奪いました。風邪なんか関係ありません。私はただ夢中で舌を絡めました。
すると堰を切ったように、女の感情が全身にほとばしったのです。
 
「好き・・好きよ・・好きなの」
 
抑え切れない想いが、無意識に口からこぼれていきます。でも言葉だけで女の情熱は収まりません。
 
自分でもどうしてこんなことができるのかわかりませんが、私はキスをしながら、ジャージを穿いている彼の股間を膝で弄んでいたのです。
 
清川君が吐息まじりに声を上げました。
 
「お、奥さん・・」
 
彼の股間をこする膝に、グリグリした硬い異物の感触が伝わってきます。
 
「・・清川君」
 
大胆にも私は、清川君の股間に手を伸ばしてみました。
はっと息を呑みました。
石のように硬くなっています。
 
上手く喩えられませんが、ドレッシングのビンを撫でているみたいな感じです。
 
「す、すごい」
 
清川君をベッドの縁に座らせると、私はジャージとトランクスを下ろしました。
 
「きゃっ!」
 
するとバネ仕掛けのように、清川君の男性が目の前に弾け出たのです。
まるで巨大なツチノコです。
 
中太な胴体の上で、大きく張り出した頭が脈打って揺れています。
 
「・・お、大きい」
 
蛇に睨まれた蛙のように、私は清川君の男性を前にして、すっかり魅入られてしまったのです。
 
清川君の前に跪いた私は、恐る恐る彼の男性に手を伸ばしました。
 
「ああ・・」
 
思わず艶めいた喘ぎが口をついてしまいました。握った親指と中指がつかないほどの太さです。それに若いからでしょうか、火傷しそうなぐらい熱がこもっています。
 
私は主人しか知らないので、男性の平均サイズなどわかりません。それでも清川君の男性が、主人のものより一回り以上大きいのは確かでした。 
                                         
つづく・・・
   
    
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小説 「妄想の仮面」 第十七章・・・

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 『妄想の仮面』  紅殻格子
十七.妻の独白(八)
 
まるで昭和の昔へ戻ったような古い住宅街に、清川君のアパートはありました。
カンカンと音を立てて外階段を上がると、場違いなKIYOKAWAとローマ字で書かれた紙の表札が貼られています。
 
私はドアの前に立つと、意を決してチャイムを鳴らしました。
 
「こんにちは」
 
しばらく時間をおいてドアが開くと、無精髭を生やした清川君が顔を出しました。
 
「えっ、田口課長の奥さん・・?」
 
吃驚した表情の清川君は、慌ててドアを閉めようとしました。
 
「すぐ部屋を片づけますから」
 
「いいのよ。寝ていたんでしょう? 面倒看  てくれって主人に頼まれて来たの」
 
私は強引にドアを開けて、初めて一人暮らしをする男性の部屋に入りました。
家具などほとんどないがらんとした部屋には、雑誌やCD、コンビニ弁当の空き箱、ビール缶などが雑然と置かれています。
清川君は部屋を片づけ始めました。
 
「済みません、散らかっていて」
 
「私がやるから・・病気なんだから寝ていなさい」
 
私は清川君を寝室へ押し込めると、食事の支度をしながら、甲斐甲斐しく部屋の掃除に取り掛かりました。
 
汚い台所やお風呂の掃除を終える頃、丁度食事が出来上がりました。
 
「奥さんの手料理は最高です。本当に美味しいです。これを食べれば、もう風邪なんかすっかり治っちゃいますよ」
 
「夜食も冷蔵庫に入れておいたから温めて食べるのよ」
 
「ありがとうございます」
 
私は心の中でほっと安堵していました。コンサート帰りのキス以来、ぎくしゃくしていた清川君との関係が、今日は昔通りに戻っているようでした。
 
清川君の寝室を出て、居間の掃除を始めようとした時です。
 
(あなた馬鹿じゃないの?)
 
誰かが私の心に話しかけてきます。
 
(どうして?)
 
(だって、今日は清川君に抱かれに来たんでしょう?)
 
(ち、違うわ・・主人に言われて・・)
 
(嘘をつくんじゃないわよ。だって来る前にシャワーを浴びて、勝負下着を穿いていたじゃない。その上ご丁寧にむだ毛の手入れまでして・・)
 
その声は私の体に巣食う女でした。
 
(そ、それは・・)
 
私は言葉に詰まってしまいました。
 
(彼に抱かれたいんでしょう? 清川君だって我慢して待っているのよ)
 
(・・でも)
 
(女は灰になるまで女よ。世間体なんか関係ないわ。さあ、行きなさい)
 
女の囁きに誘われるように、私はふらふらと清川君がいる寝室に戻ったのです。 
                                                        
つづく・・・

 

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小説 「妄想の仮面」 第十六章・・・

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      『妄想の仮面』  紅殻格子

十六.妻の独白(七)
 
私の心は揺れていました。
とうとう清川君に裸身を晒してしまいました。
しかも、主人にしか許したことがない乳房への愛撫まで許したのです。
浮気、不倫、背徳――いろいろな言葉が私を責めます。
 
ごく平凡な妻として母としての道を歩んできたのに、私は、いえ、私の中の女は、人の道を踏み外せと唆しているのです。
 
主人と愛美を愛している。
でも清川君に抱かれてみたい。
矛盾する二人の人格が、一人の私を苛み続けるのです。
 
ところが主人は、そんな私の苦しみを知ってか知らずか、とんでもないことを言い出したのです。
 
「由美子、清川が風邪をひいて寝込んでいるんだ。あいつ一人暮らしだから飯もつくれないだろう。ちょっと見舞いがてら、面倒を見てきてやってくれないか?」
 
土曜日の朝、ゴルフへ出かけた主人からの携帯でした。
清川君は昨日から会社を休んでいるらしく、今日も社内コンペを欠席するほどだから、相当体が弱っているのではないかと心配そうです。
 
「き、清川君が?」
 
元気な彼がゴルフを休むなんて、きっと重症に違いありません。
今すぐにでも飛んで行って、清川君を看病してあげたい。
でも清川君に逢ったら、私が私でなくなってしまうような気がしました。
 
「愛美のバスケ練習があるし・・」
 
「愛美なら一人で行けるだろう。それに車なら、清川のアパートまで十五分もかからないだろう」
 
「え、ええ・・」
 
「じゃあ頼んだぞ」
 
突然携帯が切れました。
主人は、私と清川君のことを何も気づいていないのです。
私の揺れる心も。
愛美を家から送り出すと、私は着替えして車に乗り込みました。途中スーパーで食材を買い込み、以前我が家で酔いつぶれた清川君を、主人と送ったアパートへ向かいました。
 
(清川君・・)
 
アパートへ近づくにつれて、冷静だった私の心は、徐々に切迫感を覚えていきました。一刻も早く清川君の看病をしたい。
それができるのは私しかいない。
もう主人も愛美のことも頭にはありません。
 
鼓動が高鳴ります。
もう私は、清川君のことしか考えられなくなっていたのです。
つづく・・・

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小説 「妄想の仮面」 第十五章・・・

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      『妄想の仮面』  紅殻格子

十五.夫の独白(八)
 
二週間後。
私は一人、暗闇でじっと正座している。
ここは、清川が住むアパートの押入れの中である。
 
清川のアパートは古い2DKで、部屋は居間と寝室とに使い分けていた。各部屋には、上下二段に仕切られた押入れがあり、私はその寝室の方に身を潜めているのだった。
 
襖を細く開くと、眩しい光とともに、部屋の造作が目に飛び込んでくる。六畳間の真ん中にベッドが置かれている。その上では、清川が寝そべって漫画の雑誌を読んでいる。
 
私は清川に声をかけた。
 
「清川、喉が渇いた。買ってきたペットボトルを持ってきてくれ」
 
「あ、わかりました」
 
清川は台所へ行くと、襖を開けてミネラルウォーターを差し出した。
 
「強めに冷房しているんですが、まだ暑いですか?」
 
「いや、室温の温度はちょうどいい。少し緊張しているのかもしれない」
 
そう言うと、私は口を潤す程度にミネラルウォーターを飲んだ。
いよいよ由美子が完全な女へと変貌する。この部屋で、私の目の前で、これから清川に抱かれるのだ。
 
悔いはない。
清川の誘惑に、あっさりと応じてしまう由美子に、歯噛みするほどの悔しさを感じるのも事実だ。
 
だが男を嫉妬させるから女なのだ。
従順な忠犬ではなく、気まぐれで浮気なメス猫だからこそ、独占欲をくすぐられた男は惚れるのだ。
 
由美子を愛し続けたい。
ならば妻や母と名づけられた鎖から、由美子を解き放たなければならない。長年、私の心に巣食ってきた妄想がついに叶う時がきた。
黒い愉悦が私を男として蘇らせるのだ。由美子を悪魔への生贄に捧げることで、私は永遠に男の本能を保ち続けることができるのだ。
玄関のチャイムが鳴った。
 
「こんにちは」
 
由美子の声がした。
清川が真顔で私の顔を見た。
私は黙って頷くと、押入れの襖をわずかな隙間だけ残して閉めた。
いよいよ最終章の幕が開いた。
つづく・・・
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小説 「妄想の仮面」 第十四章・・・

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      『妄想の仮面』  紅殻格子



十四.夫の独白(七)

浴室からリビングへ通じる廊下を、私は忍者のごとく壁伝いに歩いた。そして開いている扉の陰から、そっとリビングの様子を窺った。
由美子と清川が、ソファに座って抱き合っていた。

(ああ・・)

私はハンマーで頭を叩かれたような衝撃を受けた。しかも二人は口唇を重ねている。こちらからでは、清川の頭が邪魔で由美子の表情はわからない。だがその両腕は、しっかりと清川の首に巻きついていた。
膝がガクガクと震えてくる。

妻が不貞している現場を、今、私は目の当たりにしているのだ。
そのまま由美子はソファへ押し倒された。

「いやっ、だめよ」

抗う素振りを見せる由美子だが、清川がTシャツを捲り上げる時に、僅かに背中を浮かせてやるのを見逃さなかった。
私は愕然とした。

(・・あれが由美子か)

俄かには信じられなかった。由美子は自ら清川に裸身を晒そうとしたのだ。良妻賢母どころか、由美子は男を誘う売春婦と変わらないではないか。 清川は仰向けの由美子に覆い被さり、露になった乳房へ顔を埋めて愛撫した。

「いけない・・清川君、いけないわ」

台本の棒読みに近い由美子の台詞が、リビングに虚しく木霊する。
清川の頭に見え隠れしている乳房からは、すでに妻の純潔や母の慈愛は失せていた。

私しか知らない由美子の乳房。
年を取って張りこそないが、そのもちもちした白い柔肉の触感。歯で軽く噛んでしごくと、上半身が仰け反るほど感度がいい桃紅色の乳首。その天が私にだけ与えてくれた宝物が、清川の手垢と唾液で穢されているのだ。

しかも由美子は、うっとりと瞳を閉じて清川の愛撫を受けている。いや、その男心をくすぐる欲情した表情で、清川の男を淫らに誘惑しているのだ。

私の肉茎は直立していた。
堪えようのない嫉妬に苛まれながら、私は再び浴室へと戻った。

「・・由美子」

小さくそれだけ呟くと、開いている浴室の扉をわざと音をたてて外から閉めた。

つづく・・・

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小説 「妄想の仮面」 第十三章・・・

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      『妄想の仮面』  紅殻格子



 十三.夫の独白(六)

後ろ髪を引かれる思いで、私は由美子と清川を残して浴室へ向かった。

(由美子はどうするだろうか?)

むろん清川とは打ち合わせ済みだった。愛美が眠って私が浴室へ行くと同時に、清川が動き出す手はずだった。

私は浴室に入った。しかし扉は少し隙間を開けておく。扉の開閉には大きな音がするので、後で自由に出入りできるようにするためだ。

急ぎシャワーを浴びると、私は浴室からリビングの話し声に耳を傾けた。 テレビの音に混ざって、由美子と清川の密やかな会話が聞こえてくる。

何故由美子は、清川にキスされたことを黙っているのだろうか? 酒に酔った清川を庇うつもりだったのか、それとも・・いずれにしても今晩結論が出るはずだった。 リビングからは、テレビの音だけしか聞こえてこなくなった。

心がざわめき立った。

(由美子、どうして助けを求めに来ない?)

清川には乳房の愛撫まで認めている。由美子が騒がないとすれば、清川に不貞行為を許していることに他ならない。

頭が真っ白になった。むろん私が仕組んだことだ。

由美子を女に戻したかったからだ。だが心のどこかで、私は由美子が女へ戻ることを拒んでいたのかもしれない。

(ところが由美子は・・)

やはり甲斐甲斐しい良妻賢母なと、偽善者達がつくった幻なのだろうか。社会の鋳型にはめ込まれた偽りの聖女像なのだろうか。

嫉妬――その行き場のない感情だけが、私のたぎった血液を逆流させる。私は腰にバスタオルを巻くと、静かに浴室を出てリビングへ忍び足で向かった。

つづく・・・

  

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紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

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