小説 「妄想の仮面」 第八章・・・
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『妄想の仮面』 紅殻格子
八.夫の独白(四)
清川は怪訝な顔をした。
「しかし田口課長、それはご夫婦の問題じゃないですか・・」
「確かに清川が言う通りだ」
「それなら」
「だが十年以上夫婦をしていると、なかなか普段の生活は変えられないんだ」
私はおもむろにタバコをくわえると、ふうっとため息をつくように煙を吐いた。 夫婦の性生活は定食のようなものだ。
私は前戯も疎かでやや早漏気味、夫婦の閨はせいぜい二十分がいいところだ。 由美子も不感症ではないが、家事と育児に疲れて、暗闇の寝室でマグロになっていることが多い。 そんな夫婦生活を続けていると、急に熱心に愛撫したり、新しい性行為に挑戦したりするのは抵抗があるのだ。
しかも由美子にとっては、私こそが妻として母として安住する元凶に他ならない。 いくら淫らさを求めても、相手が私であり続ける以上、由美子は明朝の食事やゴミ捨てから逃れられないのだ。
どす黒い妄想が心に湧き上がってくる。
『妻が他の男に抱かれる姿を見たい』
妻であり母でもある由美子が、男に組み敷かれて、女の本性が命ずるまま、狂ったように身悶えている痴態を見たいのだ。 淫らな女の本性を剥き出しにして、禁じられた肉茎を受け入れる由美子を見たいのだ。
私の切々たる悩みを聞いた清川は、ビールのグラスを一気にあおった。
「わ、わかりました・・ですが、奥さんを誘惑するなんて僕には自信がありません」
覚悟を決めてくれた清川だったが、不安そうな表情を隠しきれない。
「実はコンサートのチケットを二枚用意してある」
私は鞄の中からサザンのチケットを取り出した。
「ど、どうするんですか?」
「由美子は若い頃から熱狂的なサザンのファンだ。これを使って・・」
私は清川の耳元で十年以上も練り上げた策を授けた。
「・・なるほど」
男達の秘密めいた会話は、居酒屋の片隅に異様な空間をつくった。 二人の男が抱くお互いの妄想は、歪んだ妖しい夜を更けさせていった。
つづく・・・
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