小説 「妄想の仮面」 第十七章・・・
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『妄想の仮面』 紅殻格子
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十七.妻の独白(八)
まるで昭和の昔へ戻ったような古い住宅街に、清川君のアパートはありました。
カンカンと音を立てて外階段を上がると、場違いなKIYOKAWAとローマ字で書かれた紙の表札が貼られています。
私はドアの前に立つと、意を決してチャイムを鳴らしました。
「こんにちは」
しばらく時間をおいてドアが開くと、無精髭を生やした清川君が顔を出しました。
「えっ、田口課長の奥さん・・?」
吃驚した表情の清川君は、慌ててドアを閉めようとしました。
「すぐ部屋を片づけますから」
「いいのよ。寝ていたんでしょう? 面倒看 てくれって主人に頼まれて来たの」
私は強引にドアを開けて、初めて一人暮らしをする男性の部屋に入りました。
家具などほとんどないがらんとした部屋には、雑誌やCD、コンビニ弁当の空き箱、ビール缶などが雑然と置かれています。
清川君は部屋を片づけ始めました。
「済みません、散らかっていて」
「私がやるから・・病気なんだから寝ていなさい」
私は清川君を寝室へ押し込めると、食事の支度をしながら、甲斐甲斐しく部屋の掃除に取り掛かりました。
汚い台所やお風呂の掃除を終える頃、丁度食事が出来上がりました。
「奥さんの手料理は最高です。本当に美味しいです。これを食べれば、もう風邪なんかすっかり治っちゃいますよ」
「夜食も冷蔵庫に入れておいたから温めて食べるのよ」
「ありがとうございます」
私は心の中でほっと安堵していました。コンサート帰りのキス以来、ぎくしゃくしていた清川君との関係が、今日は昔通りに戻っているようでした。
清川君の寝室を出て、居間の掃除を始めようとした時です。
(あなた馬鹿じゃないの?)
誰かが私の心に話しかけてきます。
(どうして?)
(だって、今日は清川君に抱かれに来たんでしょう?)
(ち、違うわ・・主人に言われて・・)
(嘘をつくんじゃないわよ。だって来る前にシャワーを浴びて、勝負下着を穿いていたじゃない。その上ご丁寧にむだ毛の手入れまでして・・)
その声は私の体に巣食う女でした。
(そ、それは・・)
私は言葉に詰まってしまいました。
(彼に抱かれたいんでしょう? 清川君だって我慢して待っているのよ)
(・・でも)
(女は灰になるまで女よ。世間体なんか関係ないわ。さあ、行きなさい)
女の囁きに誘われるように、私はふらふらと清川君がいる寝室に戻ったのです。
つづく・・・