『姦 計』 第十四章
『姦 計』
FC2 Blog Ranking
(十四)
深夜、一時。
今にも倒れそうな足取りで、片倉はマンションのエレベーターに乗り込んだ。
泥酔していた。
片倉は会社にほど近い小汚い居酒屋で、閉店まで一人飲んでいた。
今日、片倉は人事部長から、いきなり札幌支店釧路出張所への移動を命じられた。
しかも課長から係長への降格人事だった。
寝耳に水の片倉は理由を聞いた。
しかし人事部長は、自分の胸に聞けと激怒するばかりだった。
片倉は混乱した。
支店長昇格どころの話ではない。
しかし降格されるような落ち度も思いつかない。
業績も順調に推移している。
片倉は左遷される理由すらわからないまま、失意のうちに悶々と酒を呷ったのだった。
何とか自力で家まで辿りついたが、妻の綾子は不在だった。
綾子が遊びに出かけていていないのは珍しくないが、午前一時では遅過ぎる。
片倉は覚束ない足取りで、壁伝いに綾子の姿を探して回った。
綾子の部屋を開けて照明をつけた時、片倉は一気に酔いが醒めていくのを感じた。
パソコンが置かれた机の上に、カラープリンターで印刷された写真が載っていた。
(な、何だこれは!)
片倉の写真を持つ手が震えた。
それはアイマスクをした全裸の女が、四つん這いで犯されているのを正面から撮った写真だった。
言うまでもなく女は友紀で、男は片倉だ。
写真のピントは、鬼のような形相で女を背後から責める片倉の顔に合っている。
そして写真の裏には、
『これが私を抱けない理由?後で離婚届けを送ります』と、綾子の走り書きがあった。
片倉は思わず写真を丸めて投げた。
(ちくしょう、松村に嵌められた…)
脳裏で松村の男前の顔が、厭味たっぷりに笑った。
(しかし…松村…)
あの夜、片倉が友紀を犯している間、松村におかしな行動は見られなかった。
ずっと片倉と友紀の行為を眺めていただけで、カメラで撮影している気配など全くなかった。
(それに…)
松村が片倉の陥れたところで、何ひとつ得をすることはない。
むしろ報酬の百万円の交際費をみすみす損するだけだ。
(辻褄が合わない)
片倉は冷静に考えた。
誰が撮ったかは別にして、もしこんな写真が人手に渡り、会社中に広まりでもしたら大変なことになる。
(ま、まさか…)
ふと片倉の脳裏に悪夢が過ぎった。
(今回の左遷は、この写真が理由なのか―?)
妻がカラープリンターで打ち出したのは、この画像がメールで送られてきたからに違いない。
ならば送り主からのメールが残っているはずだ。
つづく…
皆様から頂く
が小説を書く原動力です
「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る
FC2 Blog Ranking
(十四)
深夜、一時。
今にも倒れそうな足取りで、片倉はマンションのエレベーターに乗り込んだ。
泥酔していた。
片倉は会社にほど近い小汚い居酒屋で、閉店まで一人飲んでいた。
今日、片倉は人事部長から、いきなり札幌支店釧路出張所への移動を命じられた。
しかも課長から係長への降格人事だった。
寝耳に水の片倉は理由を聞いた。
しかし人事部長は、自分の胸に聞けと激怒するばかりだった。
片倉は混乱した。
支店長昇格どころの話ではない。
しかし降格されるような落ち度も思いつかない。
業績も順調に推移している。
片倉は左遷される理由すらわからないまま、失意のうちに悶々と酒を呷ったのだった。
何とか自力で家まで辿りついたが、妻の綾子は不在だった。
綾子が遊びに出かけていていないのは珍しくないが、午前一時では遅過ぎる。
片倉は覚束ない足取りで、壁伝いに綾子の姿を探して回った。
綾子の部屋を開けて照明をつけた時、片倉は一気に酔いが醒めていくのを感じた。
パソコンが置かれた机の上に、カラープリンターで印刷された写真が載っていた。
(な、何だこれは!)
片倉の写真を持つ手が震えた。
それはアイマスクをした全裸の女が、四つん這いで犯されているのを正面から撮った写真だった。
言うまでもなく女は友紀で、男は片倉だ。
写真のピントは、鬼のような形相で女を背後から責める片倉の顔に合っている。
そして写真の裏には、
『これが私を抱けない理由?後で離婚届けを送ります』と、綾子の走り書きがあった。
片倉は思わず写真を丸めて投げた。
(ちくしょう、松村に嵌められた…)
脳裏で松村の男前の顔が、厭味たっぷりに笑った。
(しかし…松村…)
あの夜、片倉が友紀を犯している間、松村におかしな行動は見られなかった。
ずっと片倉と友紀の行為を眺めていただけで、カメラで撮影している気配など全くなかった。
(それに…)
松村が片倉の陥れたところで、何ひとつ得をすることはない。
むしろ報酬の百万円の交際費をみすみす損するだけだ。
(辻褄が合わない)
片倉は冷静に考えた。
誰が撮ったかは別にして、もしこんな写真が人手に渡り、会社中に広まりでもしたら大変なことになる。
(ま、まさか…)
ふと片倉の脳裏に悪夢が過ぎった。
(今回の左遷は、この写真が理由なのか―?)
妻がカラープリンターで打ち出したのは、この画像がメールで送られてきたからに違いない。
ならば送り主からのメールが残っているはずだ。
つづく…






「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る
- 関連記事