『姦 計』 最終章
『姦 計』
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(十五)
片倉はパソコンの電源を入れ、メールを開いてみた。
しかし綾子は家を出る前に過去のメールを全て消していっていた。
(ならば…)
次に片倉は登録されているアドレスをチェックした。
ここまでは綾子も手が回らなかったようだ。
悪夢は的中した。
(takeyuki umeno…梅野武彦)
そこにはライバルのメールアドレスが登録されていた。
片倉の頭の中で、不可思議なパズルが組み上がった。
梅原と松村はつながっていたのだ。
そう言えば関内のクラブで友紀の名を告げた時、松村の顔が一瞬歪んではないか。
片倉と同じように、梅野は過去に松村の病院を担当していたのかもしれない。
或いは狭い業界のこと、何かの講演会で一緒になったのかもしれない。
いずれにしても友紀を誘惑するように片倉から頼まれたことを、松村は梅野に注進したのだろう。
そして梅野は片倉の提示した額を上回る報酬を提示したに違いない。
片倉が松村のマンションを訪れた夜、松村がカメラを操作していないなら、あの写真の角度からすれば、梅野自身がクロゼットに潜んで撮影していたのだろう。
(妻を犠牲にして俺の写真を?)
無論その写真を人事部に送ったのも梅野だろう。
片倉の息の根を止めるためだ。
友紀はアイマスクをしていたから、誰も梅野の妻だとはわからない。
(いや、それだけではない―この写真を綾子に送ったのも間違いなく梅野だろう)
もしプライドの高い綾子がこの写真を見れば、間違いなく片倉の元を去ると梅野はわかっていた。
つまり梅野は綾子を片倉から取り戻す腹だったのだ。
アイマスクの女が自分の妻であると告げ、片倉を非難すると共に同情を買う作戦に出たのかもしれない。
或いはメールを交わしていた事実から考えれば、梅野と綾子は以前から不倫関係にあったとも考えられる。
であれば、今度の姦計は二人の共謀の可能性もある。
パソコンに映る梅野の名を前にして、片倉はがっくりと膝を折った。
(肉を斬らせて骨を断つ……か)
片倉が梅野に浴びせた一撃は、梅野にかすり傷を与えただけだった。
ところが梅野はそれを利用して、一石二鳥を狙った姦計を仕掛けてきた。
片倉の失脚、そして綾子の再略奪。
その姦計に片倉は見事に骨を断たれたのだ。
(今頃、綾子は梅野と…)
片倉は窓の外に目を遣った。
そこには相変わらず星屑を撒き散らしたような港の夜景が広がっていた。
―閉幕―
皆様から頂く
が小説を書く原動力です
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(十五)
片倉はパソコンの電源を入れ、メールを開いてみた。
しかし綾子は家を出る前に過去のメールを全て消していっていた。
(ならば…)
次に片倉は登録されているアドレスをチェックした。
ここまでは綾子も手が回らなかったようだ。
悪夢は的中した。
(takeyuki umeno…梅野武彦)
そこにはライバルのメールアドレスが登録されていた。
片倉の頭の中で、不可思議なパズルが組み上がった。
梅原と松村はつながっていたのだ。
そう言えば関内のクラブで友紀の名を告げた時、松村の顔が一瞬歪んではないか。
片倉と同じように、梅野は過去に松村の病院を担当していたのかもしれない。
或いは狭い業界のこと、何かの講演会で一緒になったのかもしれない。
いずれにしても友紀を誘惑するように片倉から頼まれたことを、松村は梅野に注進したのだろう。
そして梅野は片倉の提示した額を上回る報酬を提示したに違いない。
片倉が松村のマンションを訪れた夜、松村がカメラを操作していないなら、あの写真の角度からすれば、梅野自身がクロゼットに潜んで撮影していたのだろう。
(妻を犠牲にして俺の写真を?)
無論その写真を人事部に送ったのも梅野だろう。
片倉の息の根を止めるためだ。
友紀はアイマスクをしていたから、誰も梅野の妻だとはわからない。
(いや、それだけではない―この写真を綾子に送ったのも間違いなく梅野だろう)
もしプライドの高い綾子がこの写真を見れば、間違いなく片倉の元を去ると梅野はわかっていた。
つまり梅野は綾子を片倉から取り戻す腹だったのだ。
アイマスクの女が自分の妻であると告げ、片倉を非難すると共に同情を買う作戦に出たのかもしれない。
或いはメールを交わしていた事実から考えれば、梅野と綾子は以前から不倫関係にあったとも考えられる。
であれば、今度の姦計は二人の共謀の可能性もある。
パソコンに映る梅野の名を前にして、片倉はがっくりと膝を折った。
(肉を斬らせて骨を断つ……か)
片倉が梅野に浴びせた一撃は、梅野にかすり傷を与えただけだった。
ところが梅野はそれを利用して、一石二鳥を狙った姦計を仕掛けてきた。
片倉の失脚、そして綾子の再略奪。
その姦計に片倉は見事に骨を断たれたのだ。
(今頃、綾子は梅野と…)
片倉は窓の外に目を遣った。
そこには相変わらず星屑を撒き散らしたような港の夜景が広がっていた。
―閉幕―






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