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『パート妻の純情』(十一)

『パート妻の純情』(十一)

「妄想の囲炉裏端」紅殻格子の呟き入口
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夜九時。
浩平のミスで消去された注文データは、彩子達の残業によってほぼ復元された。

「お疲れ様でした」

蛍光灯が煌々と眩しい夜のオフィスに、コンビニの大きな袋を手にした浩平が戻ってきた。
ビールとおつまみを机の上に並べた浩平は、十数名のパート社員達に声をかけた。

「ささやかなお礼しかできませんが」

薄情な上司二人はいつも通り定時で退社していた。
自腹でビールを買ってきた浩平に、パート社員達は大きな拍手を贈った。

若い女性達は仕事をやり遂げた達成感に酔い、浩平を取り囲んでキャンキャンとはしゃいだ。
彩子はそんな若者達の歓喜を横目に、ビールを飲みながら書類の片づけを始めた。

(若い女の子が羨ましい)

彩子だって茶髪娘達に負けないぐらい浩平にじゃれつきたかった。
だが十四歳も年上の人妻には、そんな想いを叶えることすらままならない。
悲しいことに、それは夫の国夫への貞操からではなく、中年おばさんと言う劣等感から近づけないのだった。

若い娘達は浩平とカラオケへ行く約束を取りつけたらしい。

(おばさんは去るのみ)

彩子は浩平と若い娘達の誘いを断り、オフィスを後にして、寒さが厳しくなった札幌の町へ歩き出した。
つづく…
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『パート妻の純情』(十二)

『パート妻の純情』(十二)

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こんな時間に街へ出るのは久しぶりだ。
遠くすすきののネオンが、低く垂れ込めた雲を赤々と染めている。

ふと背後から彩子を呼ぶ声がした。
振り向くと浩平が追いかけてくる。

「柴崎さん」

「ど、どうしたの? 浅沼君」

浩平は肩で呼吸をしながら頭を下げた。

「本当に今日は有難うございました。柴崎さんがいなければ、僕は会社を辞めるしかないところでした」

「違うわ。皆が残業してくれたのは浅沼君の魅力よ」

「いえ、柴崎さんが若いパートさんをまとめて戴けたおかげです」

浩平の吐く白い息が、彩子の口許へ甘く漂ってくる。

「もういいから・・早く女の子達とカラオケに行きなさい」

「はあ、実は厚かましいんですが、柴崎さんにもう一つお願いがありまして・・」

「お願い?」

冷たい夜風に街路樹がざわざわ揺れた。
浩平は言い辛そうにしばらくもじもじしていたが、意を決したかきりっとした眼差しを彩子に向けた。

「はい。東京飲料の本社がある東京へ、僕と一緒に出張して戴きたいんです」

「え?」

彩子は吃驚した。
パート社員、しかも事務のオバサンが出張とはただ事ではない。

「以前柴崎さんが話されていたヘッドセットを、本社に掛け合って実現したいんです」

それは何かの折、彩子が新入社員の浩平にぽろっと洩らしたことだった。
つづく…
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『パート妻の純情』(十三)

『パート妻の純情』(十三)

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ヘッドセットとは、ヘッドホーン型の受話器にマイクがついた電話機器である。
現在使っている普通の受話器では、どうしても片手が塞がるため、注文を聞きながら受注票を書いたり入力したりする作業が難しい。

だがヘッドセットを使えば、両手が空くので作業効率が遥かに改善されるはずだった。
彩子は浩平に問いかけた。

「それを二人の上司が許してくれたの?」

「許すと言うか、あの二人は無気力で事なかれ主義ですから、提案があるなら自分で本社にかけあってこいと言われました」

「でも私が一緒に行っても・・」

「受注センターを良くするためには、絶対に必要な投資だと僕は思っています。本社から金を引き出させるには、現場の意見が非常に重みを持ちます。だから柴崎さんの生の声を本社の幹部に伝えて欲しいんです」

甘えん坊で頼りないとばかり思っていた浩平が、彩子には別人のように逞しく見えた。
彩子は上目遣いに浩平の顔を見上げた。

「浅沼君・・わ、私でいいの?」

「勿論です。こんなお願いできるのは、パート社員さんのリーダーである柴崎さんしかいません」

さっき握られた手が熱く疼いた。

「・・わかったわ」

彩子は伏し目がちに小さく頷いた。

「良かった。実はこの提案に批判的だった二人の上司に、絶対に本社は了解してくれると大見得を切っちゃったんですよ。柴崎さんが応援してくれれば鬼に金棒です」
つづく…
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『パート妻の純情』(十四)

『パート妻の純情』(十四)

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浩平は小躍りして喜んだ。
そんな浩平の姿を見て、彩子も心浮き立たずにはいられなかった。

(浩平君と東京へ行ける)

勿論、仕事であることはわかっている。
それでも周りに屯する娘達ではなく、こんなおばさんを頼りにしてくれるのが嬉しかった。
そして僅かな時間だが、アイドルの浩平を独り占めできる優越感が胸に湧いた。

彩子は懸命に喜びを押し殺して尋ねた。

「それで東京へはいつ?」

「来週の金曜日です。面談する青木業務部長にアポイントを取っています」

「金曜日ね、青木業務部長さんと会うの」

彩子は青木部長と聞いて気が楽になった。

受注センターは業務部の管轄化にある。
そのトップに立つ青木部長は、年に一二度、本社から受注センターへ視察に来る。

今年の夏に来た時には、パート社員達の慰労会を開いてくれた。
しかし青木部長は五十代半ばで、若い女の子達と話が噛み合わず、彩子がずっとお相手役を務めさせられたのだった。

「ええ、でもそれが、夜食事でもしながら話を聞こうと言われて・・ですから柴崎さんには東京に一泊して戴かないとだめなんです」

「え? 日帰りじゃないの?」

「はい」

初めて彩子の脳裏に夫の国夫と息子の明夫の顔が過ぎった。

「泊まりは難しいでしょうか?」

浩平は心配げな顔で彩子を見つめた。

(仕事だから仕方ないわ・・べ、別に浩平君と不倫するわけでもないし・・え?)
つづく…
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『パート妻の純情』(十五)

『パート妻の純情』(十五)

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心の奥底で、浩平に抱かれることを夢想する自分に彩子は愕然とした。
ズキンと下腹部が疼いた。

そして家族への後ろめたさが苦々しく彩子を襲った。
彩子は浩平を見つめた。

(でもこんなオバサンと有り得ないわよね)

彩子は下腹部の疼きにそう言い聞かせた。
宝くじより確率が低い夢に、彩子は悲しく自らを嘲笑した。

「大丈夫、任せておきなさい」

彩子は胸を叩いた。

「有難うございます。では航空券とホテルの手配は僕が済ませておきますから」

「わかったわ。それより早くあの娘達をカラオケに連れて行ってあげなさい」

彩子がそう急かすと、浩平は事務所へ戻って行った。

ぽつんと彩子は街角に残された。
照明が落ちたショーウインドウに、ぽつんと彩子の姿が写っている。

(夢だからいいのよ)

彩子は吐く息が白い北国の街を、どこか朦朧としながら地下鉄の駅へ向かった。
つづく…
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『パート妻の純情』(十六)

『パート妻の純情』(十六)

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東京は新宿歌舞伎町。
週末金曜日の夜とあって、大都会の不夜城は行き交う人と車で溢れていた。

欲望を掻き立てる原色のネオンが、まるで誘蛾灯のように、目の眩んだ男達を次々と惹き寄せていく。
それは剥き出しの淫欲と金欲が、街の至るところで渦巻いているようなにも見えた。

彩子は、そんな下界の鳥瞰を、浩平とホテル最上階のラウンジから眺めていた。

「乾杯」

仄暗い照明の下で、浩平が差し出したスコッチのロックグラスに、彩子は色鮮やかなカクテルグラスを合わせた。

青木業務部長との会食を終え、宿泊するホテルに入った彩子は、仕事が成功した祝杯をと浩平に誘われたのだった。

「でも良かったわ。ヘッドセットを買うことに青木部長が快諾してくれて」

「柴崎さんが応援してくれたおかげです」

「ううん、浅沼君が立派に青木部長を説得したからよ。私も一緒に聞いていて惚れ惚れしちゃったわ」

酔っているせいもあるだろうが、真向かいに座った浩平を意識した彩子は、普段より饒舌にならざるを得なかった。

浩平の提案は受け入れられた。
だがその結果より彩子が驚いたのは、いつもは甘えん坊で頼りない浩平が、タフでしたたかな一面を見せたことだった。

浩平は自分の意見を情熱込めてアピールし、部長からの質問にも的確且つ冷静に答えた。
しかも言葉巧みに、上司達の無能さを印象づけるのも忘れなかった。
つづく…
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『パート妻の純情』(十七)

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元々浩平に期待をかけていたらしい青木部長は、その成長ぶりに目を細めてご機嫌だった。
そして内々の話だがと前置きして、もう一二年受注センターで勉強したら、本社業務部へ異動させると約束した。

彩子は浩平に男の逞しさを感じた。
巣立っていく若鳥を見つめる母鳥のような心境だった。
逞しく浩平が成長するのは嬉しい反面、彩子の母性は、いつまでも巣から飛び立たないで欲しいと願っていた。

(もっと甘えて欲しいの)

彩子は浩平とグラスを傾けながらも、下腹部の奥で疼いて止まぬ切なさに、ただ悶々とするばかりだった。

夜十一時。
ラウンジを後にした彩子と浩平は、エレベーターに乗って部屋のある階へと戻った。

彩子はかなり酔っていた。
浩平への想いが錯綜し、カクテルグラスを無理に重ねた報いだった。
エレベーターを先に降りようとして、彩子は深い絨毯に足をとられてよろけた。

「大丈夫ですか? 柴崎さん」

浩平が背後から彩子の腰に手を回して体を支えた。

「あ・・」

彩子は小さく声を漏らした。
腰に巻きついた浩平の手の感触が、酔った彩子をいっそううろたえさせる。

「部屋まで送りますよ」

「え、でも・・どうしよう・・すごく酔っちゃって・・」

浩平に抱きかかえられながら、ホテルの長い廊下を彩子は夢うつつで部屋へ向かった。
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『パート妻の純情』(十八)

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狭いシングルルーム。
ガチャ――自動ロックがかかる音。

浩平に体を支えられながら、彩子はベッドの縁に腰かけた。

密閉された部屋
気まずい静寂。

オバサンとは言え男と女。
彩子はわざと気丈に喋り始めた。

「ごめんね、浅沼君。ちょっと目眩がしてふらふらしちゃった。私、重いから大変だったでしょう?」

「・・いえ、そんな」

座った彩子の正面に立つ浩平は、どこか気もそぞろに返事をした。

再び静寂。
彩子の目の前で浩平のネクタイが揺れた。
ゆっくりと視線を上げる彩子。

「柴崎さん」

浩平はそう小さく呼ぶと、彩子をベッドに押し倒して覆い被さってきた。

「あ、いやっ」

本能で抗う彩子の首を腕で巻き込み、浩平は顔を近づけてきた。

「だめ、だめよ・・」

「柴崎さんが好きなんです」

「うそ、うそよ」

「うそじゃありません。受注センターに配属された日から、こうなることをずっと夢見ていたんです」

浩平は彩子の顎を押さえると、強引に舌先を口唇に押し込んできた。

「んん・・んぐぅ・・」

浩平の舌先がぬめぬめと絡みつき、彩子は何度も強く舌を吸われた。
頭がじんと痺れて全身の力が抜けていく。
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『パート妻の純情』(十九)

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何年ぶりのキスだろうか。子供が生まれてからは夫にも求められたことがない。

(浩平君が私みたいなおばさんを・・)

俄かに彩子は信じられなかった。
夢かもしれないと疑った。
年齢も容姿も、自分の現実の姿は良く知っているつもりだ。

だがそんな疑心を抱きつつも、彩子の体は浩平の口づけに翻弄されていった。
抗う気持ちまで吸いとられた彩子は、瞳を閉じて浩平の舌技を受け入れるしかなかった。

浩平はそっと口唇を離すと、仰向けの彩子と並んで添い寝した。

「・・信じられない」

「信じて欲しい。僕もずっと苦しんできたんです」

浩平は白いブラウスのボタンを、ゆっくりと襟元から一つ一つ外していく。

「ずっと苦しんで?」

「だって柴崎さんは人の妻。いくら想っても叶わない恋じゃないですか」

浩平はそう彩子の耳元で囁いた。そして軽く耳朶を噛んだ。

「あっ・・でも、でも・・」

「だから今夜、叱られるのを覚悟で、僕は、僕は柴崎さんに・・」

ブラウスの前がはだけ、淡いブルーのブラジャーが露になる。

「で、でも十四歳も年上なのよ。私より若くて綺麗な娘がたくさんいるのに」

「関係ありません。僕は柴崎さんを好きになったんだから」

浩平はそう言い切ると、引き千切るようにブラジャーを剥ぎ取った。
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『パート妻の純情』(二十)

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ブルンと乳房がこぼれ出た。

小さくはない。
だが若い頃の弾力は失せている。

寝ている状態だと、古い卵を目玉焼きにした時と同じように、べったりと平板に広がってしまう。
おまけに子供から吸われた乳首は、小指の先ほどに大きく勃っている。

「いや、明かりを消して」

「だめだ」

浩平の強い口調に彩子ははっとした。

「でも、もうおばさんだから・・浩平君に見られる自信がないの」

「そんなことはないよ。ほら、こんなに柔らかいオッパイ」

浩平は彩子の腰に跨ると、両の乳房を寄せ集めて深い谷間に顔を埋めた。

「ああ」

そして左の乳房を、浩平は渦を描くように外側から中央の乳首へと舌を這わせる。
同時に右の乳首を、人差し指と親指で強弱をつけて摘む。

「はあぁぁぁ」

乳暈は粟立ち、乳首が痛いほど尖る。
お座なりな国夫しか知らない彩子の乳房は、浩平の巧みな愛撫に甘い悲鳴をあげた。

(女の体を知り尽くしているみたい)

夫と同じ男でありながら、しかも人生経験は半分ほどしかないのに、浩平は恐ろしいほど女を喜ばせる術を知っていた。
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プロフィール

紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご挨拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。               
児童文学 『プリン』
  
『プリン』を読む
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、 競走馬の名誉でも栄光でもなかった。ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
『プリン』を読む

作 品 紹 介
※ 小説を読まれる方へ・・・   更新記事は新着順に表示されますので、小説を最初からお読みになりたい方は、各カテゴリーから選択していただければ、第一章からお読みいただけます。
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