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『人外境の花嫁』八.山奥の探索者(九)

『人外境の花嫁』 

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八.山奥の探索者 (九)

さらに林道を走ると、山と山に挟まれた谷戸に小さな集落が現れた。

だが住人の姿はない。

谷を登る道沿いに、人の住まない朽ち果てた廃屋が並んでいる。

背の高い雑草が生い茂り、かつての村は森の浸食に呑み込まれつつあった。

菜穂が振り向いた。

「ここが箕面谷よ」

「・・誰も住んでいないみたいですね。廃村ですか?」

「ええ、この辺りは昔からあった集落なんだけど、今は過疎化と高齢化で誰も住んでいないわ」

「では天神会はどこに?」

「ほら、道を上がったところに神社があるでしょう。あの脇を通って、車で十分ほど上がった山の中よ」

菜穂が指差した前方に、古めかしい神社が立っている。

小高い山を背にして、迫り出して来る森林に覆われかけていた。

「昔は秋祭りになると、夜店が出て賑やかだったらしいわ。何でも西山という香具師が肩入れしていたらしいの」

おそらく足立寛三と川嶋剛志は、養父金治が言っていた通り、ここでミソソクリの少女と出会ったのだろう。

不意に若い香具師だった頃の金治の姿を月絵は想い浮かべた。

香具師もサンカも漂泊の民である。

今でこそ親分と周囲から頼られる存在となったが、当時はねぐらにも事欠く苦労をしていたに違いない。

(ごめんなさい)

箕面谷へ行くと月絵が告げると、金治は降矢木が言うように危険だと反対した。

だが不誠実な降矢木に腹を立てていた月絵は、金治に内緒のまま家を飛び出して来たのだった。

神社を越えてさらに山へ分け入ると、急に視界が開けて、巨大なコンクリート造りの建物が出現した。

つづく…

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『人外境の花嫁』八.山奥の探索者(八)

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八.山奥の探索者 (八)

車は球磨川を離れて、深い山塊へと分け入って行く。

崖っぷちの林道を縫うように走る頃には、すっかり人家も絶え、樹海と呼ぶに相応しい無辺の森林が広がっている。

菜穂が月絵と畠山を気遣う。

「この山を越えれば箕面谷よ」

「うぷっ、すごい山道ですね」

昨夜からの二日酔いと車酔いで、青い顔をした畠山はすでにグロッキーに見えた。

月絵は空のレジ袋を畠山に渡しながら、何気なく菜穂に訊ねた。

「箕面谷にある宗教法人って、この辺りでも有名なんですか?」

「ええ、大きな建物だから・・でもわざわざこんな山奥まで来るなんて、よほど大事な取材があるのね」

「本当は人を捜しているんです」

「よくある話ね。家族の反対を押し切って、誰かが入信しちゃったとか?」

「いえ、横浜に住む知り合いの女性が、連れさらわれてしまったんです。きっと天神会が関係していると思って・・」

そこまで話した月絵は、背筋がぞっと冷たくなるのを感じた。

ルームミラーへ目を遣った。

ほんの一瞬だが、鏡を通して菜穂の夫と目が合った。

まるで執念深い蛇のような眼で月絵を見ていたのだ。

夫はすぐに目を逸らしたが、その邪悪な表情に月絵は生理的な嫌悪を覚えた。

つづく…

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『人外境の花嫁』八.山奥の探索者(七)

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八.山奥の探索者 (七)

月絵と畠山を乗せた小山夫婦の車は、人吉市街から球磨川に沿って山奥へ向かった。

流域に広がるのどかな田園風景は、次第に南北の山並みが押し迫り、その風景は山里へと変わっていく。

助手席の菜穂が振り向いた。

「ここから北の山道へ入ると、子守唄で有名な五木村よ」

月絵は左手にそびえる山群を眺めて、どこか切ない節回しを思い返した。

おどまかんじん かんじん

あん衆たちゃ よか衆

よか衆ゃ良か帯 よか着物

自殺した実母が唄ってくれたのか、育ての母が唄ってくれたのか、この民謡は幼い頃から月絵の耳に残っていた。

昔、降矢木に五木の子守唄の話をしたことがあった。

「月絵君、かんじんとはどういう意味か知っているかな?」

「かんじん・・済みません、意味がわからず無意識に唄っていました」

「かんじんは勧進と書く。九州では乞食という意味だ。おどまは私と言う意味だから、私は貧しい女だと自虐的に唄っているのだよ」

降矢木はそう言うと、五木の子守唄について語り始めた。

五木村に限らず、球磨地方の貧しい山村では、口減らしに娘を奉公に出さなければならなかった。

子守女になったまだ年端もいかぬ娘達が、裕福な家の赤子をあやしながら、我が身の不幸を愚痴にした怨み節だと言う。

人の子守は 

哀れなもんよ

どこで死んでん 墓もなか

降矢木が唄ってくれた五木の子守唄の一節を思い出して、窓の外の景色が滲んでいくのを月絵は感じた。

つづく…

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紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

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ご挨拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。               
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日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
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