『人外境の花嫁』七.迷宮の案内者(十一)
『人外境の花嫁』
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七.迷宮の案内者 (十一)
月絵でも知っている『遠野物語』は、明治四十三年に柳田國男が発表した作品である。
天狗、河童、山人など、遠野に残る民話を聞き書きした内容で、日本における民俗学の先駆けとなる名著と評価されている。
「つまりサンカは、元々山で猟をするマタギや、椀などの木工品を作る木地師と並んで、平地民から山人と畏怖された漂泊の民と考えられているのだよ」
昔の村人が見た天狗や河童、妖怪などの正体は今もわからないが、山中生活者がその伝説の一端を担っていたことは、誰の想像にも難くない。
月絵は頷いた。
「つまり江戸や明治の頃、山の中を漂泊しながら、竹細工や魚を里人に売って暮らしていたのがサンカなんですね」
「そうだ。元々サンカは純粋な山の民だったのだろう。深山は平地民の立ち入ることが許されない異界だが、社会制度が整い始めた江戸や明治期に、平地の貧窮者や犯罪者が流民となって山へ逃げ込んだ。それが純然たるサンカと交じり合って、世間の目を避ける独特の人種意識を生み出した」
「だからあんな暗号みたいな文字を使ったりするんですか?」
「彼等が純粋な山の民だった頃から、神代文字を使っていた証拠はない。サンカが異端な秘密結社の如き扱いを受けるようになったのは、昭和初期に現れたある男の影響によるものだ」
「ある男?」
「そう、世間を騒然とさせた『東日流外三郡誌』を偽作した和田氏のように、その男は自分の妄想でサンカを異界の民族に仕立て上げたのだよ」
憤然と語気を荒げる降矢木に、三人の聴衆は思わず息を呑んだ。
つづく…
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紅殻格子の日記は「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に記載しています。
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「つまりサンカは、元々山で猟をするマタギや、椀などの木工品を作る木地師と並んで、平地民から山人と畏怖された漂泊の民と考えられているのだよ」
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月絵は頷いた。
「つまり江戸や明治の頃、山の中を漂泊しながら、竹細工や魚を里人に売って暮らしていたのがサンカなんですね」
「そうだ。元々サンカは純粋な山の民だったのだろう。深山は平地民の立ち入ることが許されない異界だが、社会制度が整い始めた江戸や明治期に、平地の貧窮者や犯罪者が流民となって山へ逃げ込んだ。それが純然たるサンカと交じり合って、世間の目を避ける独特の人種意識を生み出した」
「だからあんな暗号みたいな文字を使ったりするんですか?」
「彼等が純粋な山の民だった頃から、神代文字を使っていた証拠はない。サンカが異端な秘密結社の如き扱いを受けるようになったのは、昭和初期に現れたある男の影響によるものだ」
「ある男?」
「そう、世間を騒然とさせた『東日流外三郡誌』を偽作した和田氏のように、その男は自分の妄想でサンカを異界の民族に仕立て上げたのだよ」
憤然と語気を荒げる降矢木に、三人の聴衆は思わず息を呑んだ。
つづく…
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