『人外境の花嫁』七.迷宮の案内者(十二)
『人外境の花嫁』
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七.迷宮の案内者 (十二)
降矢木はしばらく間を置いて言った。
「三角寛。サンカ研究家であり、サンカ小説家だ」
「ミスミカン?」
秋月は聞いたことがない名前だと腕組みをした。
「秋月さん、説教強盗はご存じですか?」
「ああ、盗みを働いた家の住人に、戸締りが悪いとか犬を飼えとか説教した強盗のことだろう・・確か昭和の初め頃の話だと聞いたことがある」
「説教強盗と言うネーミングは、当時朝日新聞の記者だった三角寛が広めたものです」
そう言うと、降矢木は気難しげな顔をいっそう気難しげに見せた。
説教強盗と呼ばれた妻木松吉は、大正十五年から昭和四年にかけて、東京で百件ほどの強盗窃盗を働いた。
紳士的な物言いと親切な防犯説教で世間を騒がせ、新聞社が捕らえた者に賞金をかけたり、帝国議会でも取り沙汰されたりもした。
逮捕後は無期懲役の判決を受けたが、模範囚だった妻木は昭和二十二年に恩赦で仮出所し、その後は警察などの防犯講演に協力するなど、平成元年までその不可思議な生涯は続いた。
降矢木の博識は縦横無尽に展開する。
「警視庁詰めだった三角寛は、当時官憲から危険分子と目されていたサンカについて知識を得たのだと思います。現在は否定されていますが、説教強盗の妻木がサンカ出身だという説もあったほどで・・」
三角寛の話に熱が入る降矢木に、月絵はふと湧いた疑問をぶつけた。
「どうしてサンカは悪者扱いされていたんですか? それは都市から逃げた泥棒もいたでしょうけど、山で竹細工をつくって平和に暮らしていたんでしょう?」
そんなことかとでも言わんばかりに、降矢木は冷めた目で月絵を見下ろした。
つづく…
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「ミスミカン?」
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「秋月さん、説教強盗はご存じですか?」
「ああ、盗みを働いた家の住人に、戸締りが悪いとか犬を飼えとか説教した強盗のことだろう・・確か昭和の初め頃の話だと聞いたことがある」
「説教強盗と言うネーミングは、当時朝日新聞の記者だった三角寛が広めたものです」
そう言うと、降矢木は気難しげな顔をいっそう気難しげに見せた。
説教強盗と呼ばれた妻木松吉は、大正十五年から昭和四年にかけて、東京で百件ほどの強盗窃盗を働いた。
紳士的な物言いと親切な防犯説教で世間を騒がせ、新聞社が捕らえた者に賞金をかけたり、帝国議会でも取り沙汰されたりもした。
逮捕後は無期懲役の判決を受けたが、模範囚だった妻木は昭和二十二年に恩赦で仮出所し、その後は警察などの防犯講演に協力するなど、平成元年までその不可思議な生涯は続いた。
降矢木の博識は縦横無尽に展開する。
「警視庁詰めだった三角寛は、当時官憲から危険分子と目されていたサンカについて知識を得たのだと思います。現在は否定されていますが、説教強盗の妻木がサンカ出身だという説もあったほどで・・」
三角寛の話に熱が入る降矢木に、月絵はふと湧いた疑問をぶつけた。
「どうしてサンカは悪者扱いされていたんですか? それは都市から逃げた泥棒もいたでしょうけど、山で竹細工をつくって平和に暮らしていたんでしょう?」
そんなことかとでも言わんばかりに、降矢木は冷めた目で月絵を見下ろした。
つづく…
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