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『人外境の花嫁』一.異界の漂泊民(十二)

『人外境の花嫁』 

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一.異界の漂泊民 (十二)

すると飴細工の老人は、横浜から来た都会者を鼻で笑った。

「ふん、若造よ。世の中にはな、新聞に書いていないことがまだたくさんある。山窩と香具師は似て非なるものじゃよ」

見下したような老人の態度に剛志が噛みついた。

「そりゃ家がないのは驚きですが、旅回りで暮らすのは一緒じゃないですか」

老人は首を振った。

「山窩は生まれ持っての放浪者よ。だからあれがない」

「・・あれ?」

「戸籍じゃよ」

思いもよらぬ答えに、寛三と剛志は顔を見合わせた。

日本国に住む人間ならば、誰もが戸籍を持っているものと寛三は漠然と思っていた。

「こ、戸籍のない日本人がいるんですか」

「家に定住せず、山を彷徨う人間が、出生届を役所に届けるはずがないじゃろう」

老人はそれだけ答えると、何事もなかったかのように再び飴細工をこね始めた。

寛三は愕然とした。

世は鎌倉時代でも室町時代でもない。

日々近代国家へと邁進する日本に、まだ行政が把握できない人々が暮らしているのだ。

(あの天衣無縫な少女は、国家の支配も及ばない異界を放浪しているのか・・)

すっかり闇に覆われた深山へ寛三は目を遣った。

異界の漂泊者―山窩。

深山を放浪する社会から隔絶された民の存在に、寛三はぞくぞくするような魅惑を感じるのだった。

つづく…

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『人外境の花嫁』一.異界の漂泊民(十一)

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一.異界の漂泊民 (十一)

剛志がヒューと口笛を吹いた。

「物乞いの娘にしては、いい乳をしているじゃないですか、ねえ兄貴」

「馬鹿野郎、下衆なことを言うんじゃねえ」

気分を害した寛三は、剛志の尻を思いっきり蹴飛ばした。

すると飴細工の老人が寛三に言った。

「あれは勧進の子じゃ」

「カンジン?」

「この辺りではそう呼んでおる。世間では山窩と言うらしいがな」

「はあ、サンカですか?」

初めて耳にする言葉に寛三は首を傾げた。 

老人は飴でできた象の鼻を延ばしながら、都会者には馴染みがないかもしれんと呟いた。

寛三は少年の言葉を思い返した。

「でも彼等は自分をミソ・・何とかと言っていましたが?」

「生業から箕そそくりと呼ぶ地域もある」

箕とは、穀類の実と殻を区分けする竹の皮などで編んだ農具である。

またそそくるは修理するという意味の方言だと老人は教えてくれた。

剛志が横から口を挟んだ。

「ああ、農具の修理屋ですか」

「そうじゃ、山窩は箕つくりや箕直しをしながら、定住する家を持たず、山々を自由に放浪して暮らしているんじゃ」

懐手した剛志が感心したように言った。

「それなら旅回りの俺達と大して変わらないじゃないですかね、兄貴」

「ああ、まだ家族揃って放浪するだけ、一人旅の香具師よりましかもしれないな」

横浜に残した妻と子供を思い返して、寛三は我が身の不憫を自嘲した。

つづく…

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『人外境の花嫁』一.異界の漂泊民(十)

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一.異界の漂泊民 (十)

気がつくと、香具師仲間や村人の視線が少女の裸身へ注がれていた。

にやけた表情で舌なめずりする男達。

穢らわしいものでも見るように顔をしかめる女達。

だが好奇と軽蔑の目などどこ吹く風、一心不乱に少女はヨーヨーに集中している。

「あっ、釣れた!」

ヨーヨーを釣り上げた少女は、太古の巫女さながらに境内をくるくると舞い踊った。

可憐な膨らみが千切れんばかりに揺れる。

その頂を飾る乳暈は、もう大人びて薄小豆色に色づいているが、乳首はまだ童女と変わらず米粒ほどに小さかった。

少女は寛三へ頭を丁寧に下げた。

「お兄ちゃん、ありがとう」

釣れなかった弟にそのヨーヨーを渡すと、姉弟は再び漆黒の影となって、山奥へ続く森の中に消えて行った。

まるで風のように。

呆気にとられた寛三は、くすっと小さく独り笑った。

(天衣無縫なのか・・)

南洋の裸族がそうであるように、少女は裸に対して羞恥がないのかもしれない。

日本人が守る生活規範から、少女は大きく食み出してしまっているのだろう。

少女は一体何者なのだろうか?

貧しい着物、未就学、定住する家もない。

だが屈託のない自由で無邪気な笑顔。

おそらく少女は、集落の人々とも相容れない異界の住人に違いない。

決して幼(よう)女趣味など持たぬ寛三だが、風と共に現れて消えた不思議の国の少女に、いつしか魅入られている自分を感じていた。

つづく…

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紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

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ご挨拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。               
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日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
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