『人外境の花嫁』 一.異界の漂泊民(三)
『人外境の花嫁』
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一.異界の漂泊民(三)
逢魔が時を迎えた神社の境内にも、いつしか深い森から闇が忍び寄ろうとしていた。
寛三はアセチレンランプに火を入れた。
ポッと炎が灯ると、独特の臭気が辺りに拡がっていく。
相変わらず客は疎らだった。
水槽からヨーヨーを一つ取ると、寛三はパンパン突きながら歌を口ずさんだ。
「夜が冷たい心が寒い~渡り鳥かよ俺等の旅は~風のまにまに吹きさらし」
東海林太郎の『旅笠道中』が、寛三は幼い頃から好きだった。
無宿人の博徒が浮き草暮らしを嘆く歌だが、逆に寛三はそんな気ままな放浪生活に憧れた。
生来の天邪鬼。
整然と世を泳ぐイワシの群れに、寛三は悪心すら催した。
愚連隊に入ったのは、がんじがらめに縛られた社会への反抗心からだった。
そして香具師社会の門を叩いたのも、社会に背を向けたまま旅の空で死にたいと願ったからだった。
暇を持て余した剛志が隣で呟いた。
「兄貴、俺さあ、早く横浜に帰りたいよ」
「俺達は香具師稼業に草鞋を脱いだんだ。帰る家などない風来坊だと思え」
「でもよ・・本当は兄貴だって横浜のネオンが恋しいんだろう?」
「馬鹿野郎、そんな甘ったれた根性で香具師が務まるかっ!」
寛三は里心がついた剛志の頭へヨーヨーをぶつけた。
だがそれは寛三自身への戒めだった。
旅へ出て一カ月、剛志はまだ独身だが、寛三には横浜に残してきた妻と娘がいた。
つづく…
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寛三はアセチレンランプに火を入れた。
ポッと炎が灯ると、独特の臭気が辺りに拡がっていく。
相変わらず客は疎らだった。
水槽からヨーヨーを一つ取ると、寛三はパンパン突きながら歌を口ずさんだ。
「夜が冷たい心が寒い~渡り鳥かよ俺等の旅は~風のまにまに吹きさらし」
東海林太郎の『旅笠道中』が、寛三は幼い頃から好きだった。
無宿人の博徒が浮き草暮らしを嘆く歌だが、逆に寛三はそんな気ままな放浪生活に憧れた。
生来の天邪鬼。
整然と世を泳ぐイワシの群れに、寛三は悪心すら催した。
愚連隊に入ったのは、がんじがらめに縛られた社会への反抗心からだった。
そして香具師社会の門を叩いたのも、社会に背を向けたまま旅の空で死にたいと願ったからだった。
暇を持て余した剛志が隣で呟いた。
「兄貴、俺さあ、早く横浜に帰りたいよ」
「俺達は香具師稼業に草鞋を脱いだんだ。帰る家などない風来坊だと思え」
「でもよ・・本当は兄貴だって横浜のネオンが恋しいんだろう?」
「馬鹿野郎、そんな甘ったれた根性で香具師が務まるかっ!」
寛三は里心がついた剛志の頭へヨーヨーをぶつけた。
だがそれは寛三自身への戒めだった。
旅へ出て一カ月、剛志はまだ独身だが、寛三には横浜に残してきた妻と娘がいた。
つづく…
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