『人外境の花嫁』 一.異界の漂泊民(四)
『人外境の花嫁』
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一.異界の漂泊民(四)
娘は七歳。
今が一番可愛い年頃かもしれない。
仕事とは言え、近くにいてやれない不憫さが胸を締めつける。
何日も家に帰らない父を、娘はどう思っているのだろうか。
今夜も妻と二人きりの晩ご飯を食べながら、家族団欒で卓袱台を囲む友達を羨んではいるまいか。
休日も大好きな遊園地へ連れて行ってもらえず、やくざな父の稼業を恨んではいるまいか。
そして妻も。
妻は寛三より五つ年上で、愚連隊時代に飯を食わせてくれた水商売あがりの女だった。
男で苦労を続けて来た妻は、平凡な堅気の結婚生活を望んでいた。
まさか亭主が香具師になり、全国各地へ稼業の旅へ出るとは思っていなかったろう。
(今頃あいつは・・)
娘を産んだとは言え、今も男の目を惹く三十路の熟肢が、孤閨をしっかり守らせているか不安が残った。
決して美人ではないが、流し目が妙に男心をそそる色年増である。
毎夜寛三は商人宿の煎餅蒲団で懊悩した。
娘の愛らしい笑顔と妻の淫らな白い肌が、代わる代わる瞼に浮かんでは消えていく。
今すぐ露店など放り出して、横浜にいる家族の許へ帰りたい。そんな衝動に駆られる夜が九州へ来てから幾夜も続いた。
旅稼業と残してきた家族。
香具師を天職と心に決めた寛三にとって、家族は後ろ髪を引かれる足手まといなのかもしれない。
だが家族への情は、人間が生まれながらに持つ自然な感情に他ならない。
寛三は相容れない葛藤の荒波に、今宵も密かに心を揺さぶられていた。
つづく…
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娘は七歳。
今が一番可愛い年頃かもしれない。
仕事とは言え、近くにいてやれない不憫さが胸を締めつける。
何日も家に帰らない父を、娘はどう思っているのだろうか。
今夜も妻と二人きりの晩ご飯を食べながら、家族団欒で卓袱台を囲む友達を羨んではいるまいか。
休日も大好きな遊園地へ連れて行ってもらえず、やくざな父の稼業を恨んではいるまいか。
そして妻も。
妻は寛三より五つ年上で、愚連隊時代に飯を食わせてくれた水商売あがりの女だった。
男で苦労を続けて来た妻は、平凡な堅気の結婚生活を望んでいた。
まさか亭主が香具師になり、全国各地へ稼業の旅へ出るとは思っていなかったろう。
(今頃あいつは・・)
娘を産んだとは言え、今も男の目を惹く三十路の熟肢が、孤閨をしっかり守らせているか不安が残った。
決して美人ではないが、流し目が妙に男心をそそる色年増である。
毎夜寛三は商人宿の煎餅蒲団で懊悩した。
娘の愛らしい笑顔と妻の淫らな白い肌が、代わる代わる瞼に浮かんでは消えていく。
今すぐ露店など放り出して、横浜にいる家族の許へ帰りたい。そんな衝動に駆られる夜が九州へ来てから幾夜も続いた。
旅稼業と残してきた家族。
香具師を天職と心に決めた寛三にとって、家族は後ろ髪を引かれる足手まといなのかもしれない。
だが家族への情は、人間が生まれながらに持つ自然な感情に他ならない。
寛三は相容れない葛藤の荒波に、今宵も密かに心を揺さぶられていた。
つづく…
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