『人外境の花嫁』一.異界の漂泊民(五)
『人外境の花嫁』
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一.異界の漂泊民(五)
不意に強い風が山から吹いてきた。
境内の裏に迫る森がざわっと騒いだ。
露店の幟や暖簾がはためき、アセチレンランプの光がゆらゆらと揺れた。
暗がりとなった御神木の辺りに、寛三は小さな人影か動くのを見た。
(おや、子供か?)
小●生低学年ぐらいの少年と中●生ぐらいの少女が、こちらの様子を窺っているようだった。
祭に来た姉弟だろうか、それにしてはいつまでも森の木陰から出て来ようとしない。
寛三はその姿に違和感を覚えた。
目を凝らすと、洋服が当たり前の昨今、二人ともぼろぼろの着物を身につけていた。
しかも髪はぼさぼさで、今年封切られた『七人の侍』に出てくる百姓のようだった。
二人は言い争っていた。
露店へ行きたがる少年を、年上の少女が懸命に宥めているように見えた。
だがアセチレンランプの誘惑に堪えられなかったのか、少年は少女の手を振り切って露店へ駆け寄ってきた。
「夜なのに昼間みたいだ」
少年は一頻り露店の間をはしゃぎ回ると、ヨーヨーが浮く水槽の前にしゃがみ込んだ。
「わあ、きれいじゃ」
目を丸くした少年の円らな瞳に、色取り取りのヨーヨーが写っている。
明るいところで見ると、やはり集落の子供達とは違って、少年の身なりはひどくみすぼらしかった。
垢と埃でごわごわになった着物は、黒光りするほどに汚れ、むっと鼻を突く獣のような臭いがした。
(浮浪児か?)
寛三は少年の姿を見て、忘れかけていた終戦直後の横浜を思い返した。
つづく…
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境内の裏に迫る森がざわっと騒いだ。
露店の幟や暖簾がはためき、アセチレンランプの光がゆらゆらと揺れた。
暗がりとなった御神木の辺りに、寛三は小さな人影か動くのを見た。
(おや、子供か?)
小●生低学年ぐらいの少年と中●生ぐらいの少女が、こちらの様子を窺っているようだった。
祭に来た姉弟だろうか、それにしてはいつまでも森の木陰から出て来ようとしない。
寛三はその姿に違和感を覚えた。
目を凝らすと、洋服が当たり前の昨今、二人ともぼろぼろの着物を身につけていた。
しかも髪はぼさぼさで、今年封切られた『七人の侍』に出てくる百姓のようだった。
二人は言い争っていた。
露店へ行きたがる少年を、年上の少女が懸命に宥めているように見えた。
だがアセチレンランプの誘惑に堪えられなかったのか、少年は少女の手を振り切って露店へ駆け寄ってきた。
「夜なのに昼間みたいだ」
少年は一頻り露店の間をはしゃぎ回ると、ヨーヨーが浮く水槽の前にしゃがみ込んだ。
「わあ、きれいじゃ」
目を丸くした少年の円らな瞳に、色取り取りのヨーヨーが写っている。
明るいところで見ると、やはり集落の子供達とは違って、少年の身なりはひどくみすぼらしかった。
垢と埃でごわごわになった着物は、黒光りするほどに汚れ、むっと鼻を突く獣のような臭いがした。
(浮浪児か?)
寛三は少年の姿を見て、忘れかけていた終戦直後の横浜を思い返した。
つづく…
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