『人外境の花嫁』一.異界の漂泊民(十二)
『人外境の花嫁』
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一.異界の漂泊民 (十二)
すると飴細工の老人は、横浜から来た都会者を鼻で笑った。
「ふん、若造よ。世の中にはな、新聞に書いていないことがまだたくさんある。山窩と香具師は似て非なるものじゃよ」
見下したような老人の態度に剛志が噛みついた。
「そりゃ家がないのは驚きですが、旅回りで暮らすのは一緒じゃないですか」
老人は首を振った。
「山窩は生まれ持っての放浪者よ。だからあれがない」
「・・あれ?」
「戸籍じゃよ」
思いもよらぬ答えに、寛三と剛志は顔を見合わせた。
日本国に住む人間ならば、誰もが戸籍を持っているものと寛三は漠然と思っていた。
「こ、戸籍のない日本人がいるんですか」
「家に定住せず、山を彷徨う人間が、出生届を役所に届けるはずがないじゃろう」
老人はそれだけ答えると、何事もなかったかのように再び飴細工をこね始めた。
寛三は愕然とした。
世は鎌倉時代でも室町時代でもない。
日々近代国家へと邁進する日本に、まだ行政が把握できない人々が暮らしているのだ。
(あの天衣無縫な少女は、国家の支配も及ばない異界を放浪しているのか・・)
すっかり闇に覆われた深山へ寛三は目を遣った。
異界の漂泊者―山窩。
深山を放浪する社会から隔絶された民の存在に、寛三はぞくぞくするような魅惑を感じるのだった。
つづく…
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すると飴細工の老人は、横浜から来た都会者を鼻で笑った。
「ふん、若造よ。世の中にはな、新聞に書いていないことがまだたくさんある。山窩と香具師は似て非なるものじゃよ」
見下したような老人の態度に剛志が噛みついた。
「そりゃ家がないのは驚きですが、旅回りで暮らすのは一緒じゃないですか」
老人は首を振った。
「山窩は生まれ持っての放浪者よ。だからあれがない」
「・・あれ?」
「戸籍じゃよ」
思いもよらぬ答えに、寛三と剛志は顔を見合わせた。
日本国に住む人間ならば、誰もが戸籍を持っているものと寛三は漠然と思っていた。
「こ、戸籍のない日本人がいるんですか」
「家に定住せず、山を彷徨う人間が、出生届を役所に届けるはずがないじゃろう」
老人はそれだけ答えると、何事もなかったかのように再び飴細工をこね始めた。
寛三は愕然とした。
世は鎌倉時代でも室町時代でもない。
日々近代国家へと邁進する日本に、まだ行政が把握できない人々が暮らしているのだ。
(あの天衣無縫な少女は、国家の支配も及ばない異界を放浪しているのか・・)
すっかり闇に覆われた深山へ寛三は目を遣った。
異界の漂泊者―山窩。
深山を放浪する社会から隔絶された民の存在に、寛三はぞくぞくするような魅惑を感じるのだった。
つづく…
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