『人外境の花嫁』一.異界の漂泊民(七)
『人外境の花嫁』
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一.異界の漂泊民 (七)
寛三は少年に声をかけてみた。
「坊主、ヨーヨー釣りがしたいのか?」
「うん」
きらきらと目を輝かせる少年は無邪気に頷いた。
「坊主はこの一木集落の子供か?」
「ううん、オレ、山に住んどる」
少年はたどたどしく答えると、すっかり陽が暮れた山々を指差した。
「そうか、まだ山奥に猟師か炭焼きの家があるんだな」
寛三は合点がいった。
深山に住む者ならば、現代の生活から取り残されていても不思議ではない。
だが少年は首を振った。
「オレ、ミソソクリじゃけん、家は持たん」
「ミ、ミソ・・?」
九州地方の方言だろうか、寛三には少年の言葉がよくわからなかった。
「しかし家を持たんって・・それならどこで飯を食う? どこで寝ているんだ?」
「山の河原じゃ。洞穴があればそこで暮らすこともある」
「・・それじゃ物乞いじゃないか」
「オレらは物乞いじゃない。大きな山をいくつも越えて、あちこちの村を回って商売しとる。だから家などあったら邪魔になろう?」
ふんと笑った少年は、鼻から垂れた青っ洟を袖で拭った。
確かに世の中には、昔から各地を渡り歩く稼業がある。
旅役者、サーカス、薬売り、養蜂家、むろん寛三が稼業とする香具師もそうだ。だがそれは出稼ぎに近く、定住する家がないわけではない。
寛三は困惑した。
「でも小学校へは行っているんだろう?」
「行かん。ミソソクリは学校など行かんでもいい」
少年は急に語気を強めたが、少し目を伏せて悲しそうな表情を見せた。
つづく…
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寛三は少年に声をかけてみた。
「坊主、ヨーヨー釣りがしたいのか?」
「うん」
きらきらと目を輝かせる少年は無邪気に頷いた。
「坊主はこの一木集落の子供か?」
「ううん、オレ、山に住んどる」
少年はたどたどしく答えると、すっかり陽が暮れた山々を指差した。
「そうか、まだ山奥に猟師か炭焼きの家があるんだな」
寛三は合点がいった。
深山に住む者ならば、現代の生活から取り残されていても不思議ではない。
だが少年は首を振った。
「オレ、ミソソクリじゃけん、家は持たん」
「ミ、ミソ・・?」
九州地方の方言だろうか、寛三には少年の言葉がよくわからなかった。
「しかし家を持たんって・・それならどこで飯を食う? どこで寝ているんだ?」
「山の河原じゃ。洞穴があればそこで暮らすこともある」
「・・それじゃ物乞いじゃないか」
「オレらは物乞いじゃない。大きな山をいくつも越えて、あちこちの村を回って商売しとる。だから家などあったら邪魔になろう?」
ふんと笑った少年は、鼻から垂れた青っ洟を袖で拭った。
確かに世の中には、昔から各地を渡り歩く稼業がある。
旅役者、サーカス、薬売り、養蜂家、むろん寛三が稼業とする香具師もそうだ。だがそれは出稼ぎに近く、定住する家がないわけではない。
寛三は困惑した。
「でも小学校へは行っているんだろう?」
「行かん。ミソソクリは学校など行かんでもいい」
少年は急に語気を強めたが、少し目を伏せて悲しそうな表情を見せた。
つづく…
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