『蟻地獄』 第十一章
『蟻地獄』
十一
佳美の川崎を見つめる瞳が潤んでいる。
川崎もまた、熱い視線を年上の佳美へ注いでいる。
(奥さんが理想の女性です)
会社での純真で澄んだ好青年の目は、佳美への欲情をたぎらせた狩人の目に変わっていた。
ラジコン・ヘリに託けて、上司の妻を狙っているのは明白だった。
まるで恋人同士が語らうように、佳美と川崎は仲睦まじく語らい合っている。
もはや二人が恋に落ちるのは時間の問題だろう。
そして若い肉体を絡ませ合うのも、さほど遠い日ではあるまい。
和彦はふっと自嘲気味に笑みを浮かべた。
(これでいいんだ・・)
失意の中、恋人だった由香の淫らな姿態が脳裏をよぎった。
刹那、全身の血液が嫉妬で熱くたぎった。
(いや違う・・俺はずっとこの日を待ち侘びてきたんだ)
人間不信など言い訳に過ぎない。
別れても和彦は由香を想い続けた。
松浦に寝取られた由香を夢想して、和彦は嫉妬に身悶えながら自慰を繰り返してきた。
由香が残してくれた黒い愉悦に、身も心も奴隷のように服従してきたのだ。
佳美と結婚した日から、ずっと和彦は裏切られる日を夢見てきたのかもしれない。
川崎が部下として現れた日から、無意識に佳美へ近づけようとしてきたのかもしれない。
それが和彦の愛なのだ。
和彦を裏切ってくれる佳美に、和彦はずっと恋焦がれてきたのだ。
(いいんだよ佳美、川崎に抱かれるお前を愛しているんだ)
和彦の肉茎は痛いほど怒張していた。
由香を寝取られて以来、嫉妬と言う悦楽の蟻地獄へ、和彦はゆっくりと滑り落ちて行くのを感じた。
つづく…
「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る
十一
佳美の川崎を見つめる瞳が潤んでいる。
川崎もまた、熱い視線を年上の佳美へ注いでいる。
(奥さんが理想の女性です)
会社での純真で澄んだ好青年の目は、佳美への欲情をたぎらせた狩人の目に変わっていた。
ラジコン・ヘリに託けて、上司の妻を狙っているのは明白だった。
まるで恋人同士が語らうように、佳美と川崎は仲睦まじく語らい合っている。
もはや二人が恋に落ちるのは時間の問題だろう。
そして若い肉体を絡ませ合うのも、さほど遠い日ではあるまい。
和彦はふっと自嘲気味に笑みを浮かべた。
(これでいいんだ・・)
失意の中、恋人だった由香の淫らな姿態が脳裏をよぎった。
刹那、全身の血液が嫉妬で熱くたぎった。
(いや違う・・俺はずっとこの日を待ち侘びてきたんだ)
人間不信など言い訳に過ぎない。
別れても和彦は由香を想い続けた。
松浦に寝取られた由香を夢想して、和彦は嫉妬に身悶えながら自慰を繰り返してきた。
由香が残してくれた黒い愉悦に、身も心も奴隷のように服従してきたのだ。
佳美と結婚した日から、ずっと和彦は裏切られる日を夢見てきたのかもしれない。
川崎が部下として現れた日から、無意識に佳美へ近づけようとしてきたのかもしれない。
それが和彦の愛なのだ。
和彦を裏切ってくれる佳美に、和彦はずっと恋焦がれてきたのだ。
(いいんだよ佳美、川崎に抱かれるお前を愛しているんだ)
和彦の肉茎は痛いほど怒張していた。
由香を寝取られて以来、嫉妬と言う悦楽の蟻地獄へ、和彦はゆっくりと滑り落ちて行くのを感じた。
つづく…
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