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『蟻地獄』 最終章

『蟻地獄』
19

驚きながらも和彦はそっと耳を澄ませた。

「・・いや、本当に羨ましいほど仲がいいんですね。僕も結婚するなら、お二人のような家庭を築きたいですよ」

「うふふ、ありがとう。私、ファザコンなのかもしれないけど、パパがいつも傍にいてくれないとダメなの」

「僕もですよ。高山課長と一緒にいると、北海道の親父といるみたいで、何か気持ちがほのぼのと和らぐんですよね」

「私もいろんな男性を見てきたけど、大きな心で私を見守ってくれるのはパパだけ・・大袈裟に言えば人として愛せたのはパパだけかな・・うふふ」

「いやぁ、おのろけですか・・でも課長は大丈夫ですかね? ちょっと飲み過ぎていたみたいだから・・」

「ええ、今夜はこのぐらいにしましょう。私は部屋へ戻ってパパを看病しなきゃ」

「それがいいですね・・でもお疲れでしょうから、くれぐれも変なところだけを看病しないように・・」

「んもぅ、川崎君ったら・・えへへ、でも我慢する自信がないわあ・・じゃ、おやすみなさい」

そこで会話が途切れた。

和彦の頭は混乱した。

(・・そんな馬鹿な)

だがこんなところでぼんやりしてもいられない。佳美が戻る前に部屋へ戻らなければならない。
慌てて和彦は手すりによじ登った。

(一体俺は・・)

何度も何度もそう心の中で呟きながら、和彦は手すりの外を横伝いに部屋へ戻ろうとした。

海からの風が、マンションの外壁を伝って吹き上げてきた。

「あっ!」

左手が手すりをつかみ損ねた。
ぞくっと全身に氷のような冷たさが駆け抜けた。

一瞬ふわっと宙に浮いた。
そして一転、急速に和彦の体は地面へ落下し始めた。

「よ、佳美!」

和彦はかろうじて妻の名前を呼んだ。
だがいくらもがいても、非情にも暗い蟻地獄の穴は和彦の体を真っ逆さまに呑み込んでいった。
――閉幕――

「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る

theme : 妄想の座敷牢
genre : アダルト

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紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

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日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
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