『蟻地獄』 第十二章
『蟻地獄』
十二
伊豆半島。
真夏の海岸は、家族連れや若いカップルの海水浴客で賑わっていた。
ぎらぎらと照りつける陽射しの中、色取り取りの水着をつけた男女が、思い思いに開放的な休日を楽しんでいる。
ビーチパラソルがつくる僅かな日陰で、和彦は寝転がって缶ビールを飲んでいた。
「パパ、もう飲んでいるの?」
「早いなあ・・課長、まだ午後一時ですよ」
ゴムボートを借りてきた佳美と川崎が、呆れた表情で和彦に文句を言った。
真っ赤なビキニをつけた佳美は、日焼けした肢体を惜しげもなく晒している。
深い谷間をつくる迫り上がった胸元、くっきりとくびれた贅肉のないウエスト、そしてきゅっと締まったヒップは、まだ十代でも通用する初々しさを湛えていた。
また川崎も、トレーニングジムおたくと豪語するだけあって、筋肉質な長身と割れた腹筋が逞しく見えた。
ぶよぶよした白い腹の和彦は、拗ねた子供のように口を尖らせた。
「ふん、年寄りが海へ来ても酒を飲むしかないだろう」
「もうパパったら・・お酒を飲んだら海に入れないじゃない」
「いいよ、ここで荷物番をしているから泳いできなさい」
その言葉を待っていたのか、二人は子供のようにはしゃぎながら、ボートを持って波打ち際へ走って行った。
和彦と佳美は、伊豆にある会社の保養施設を利用して、お盆休みを海辺で過ごすことにしていた。
「おい、川崎も誘ってやろうか?」
「そうね、彼がいたら楽しくなるわね」
和彦の一言に佳美も同意した。実家の北海道へ帰りそびれた川崎は、遠慮しながらも一緒に伊豆までついて来たのだった。
佳美が乗るボートを川崎が泳いで沖へと押して行く。
何を話しているのかわからないが、二人の楽しそうな笑顔が、きらきらと光の粒子をまとった波間で揺れている。
つづく…
「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る
十二
伊豆半島。
真夏の海岸は、家族連れや若いカップルの海水浴客で賑わっていた。
ぎらぎらと照りつける陽射しの中、色取り取りの水着をつけた男女が、思い思いに開放的な休日を楽しんでいる。
ビーチパラソルがつくる僅かな日陰で、和彦は寝転がって缶ビールを飲んでいた。
「パパ、もう飲んでいるの?」
「早いなあ・・課長、まだ午後一時ですよ」
ゴムボートを借りてきた佳美と川崎が、呆れた表情で和彦に文句を言った。
真っ赤なビキニをつけた佳美は、日焼けした肢体を惜しげもなく晒している。
深い谷間をつくる迫り上がった胸元、くっきりとくびれた贅肉のないウエスト、そしてきゅっと締まったヒップは、まだ十代でも通用する初々しさを湛えていた。
また川崎も、トレーニングジムおたくと豪語するだけあって、筋肉質な長身と割れた腹筋が逞しく見えた。
ぶよぶよした白い腹の和彦は、拗ねた子供のように口を尖らせた。
「ふん、年寄りが海へ来ても酒を飲むしかないだろう」
「もうパパったら・・お酒を飲んだら海に入れないじゃない」
「いいよ、ここで荷物番をしているから泳いできなさい」
その言葉を待っていたのか、二人は子供のようにはしゃぎながら、ボートを持って波打ち際へ走って行った。
和彦と佳美は、伊豆にある会社の保養施設を利用して、お盆休みを海辺で過ごすことにしていた。
「おい、川崎も誘ってやろうか?」
「そうね、彼がいたら楽しくなるわね」
和彦の一言に佳美も同意した。実家の北海道へ帰りそびれた川崎は、遠慮しながらも一緒に伊豆までついて来たのだった。
佳美が乗るボートを川崎が泳いで沖へと押して行く。
何を話しているのかわからないが、二人の楽しそうな笑顔が、きらきらと光の粒子をまとった波間で揺れている。
つづく…
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