『蟻地獄』 第十四章
『蟻地獄』
十四
和彦はさりげなくバルコニーを確認した。
バルコニーの手すりは、高さ一メートルほどのアルミ製で、隣室との境は、プラスチック製の避難用間仕切りで遮られている。
手すりを乗り越えて外を伝えば、易々と隣室から忍び込めるつくりになっていた。
「いやん、高いところはお尻がムズムズしちゃう」
佳美は逃げるようにリビングへ戻った。
後を追って和彦は、バルコニーのサッシを閉めてカーテンを引いた。
(よし)
佳美に気づかれぬように、カーテンを閉める際、和彦はわざと僅かな隙間を残しておいた。
むろん計画通りの細工だった。
風呂から川崎が戻ってきて宴会が始まった。
高山家での酒盛りと変わらず、佳美と川崎から疎外された和彦は、ぐいぐいと焼酎をロックであおった。
「飲み過ぎよ、パパ」
心配そうな顔の佳美が、和彦からグラスを取り上げた。
「ふん、大丈夫だよ・・ちょっとトイレへ行ってくる」
ソファから立ち上がった和彦は、わざと酔ったように足許をふらつかせた。
「危ない。ダメよ、昼間からずっと飲んでいるんだもの」
「そうですよ、課長。二三時間寝てから続きをやりましょう」
佳美と川崎は、申し合わせたように和彦を部屋から追い出そうとした。
「そうだな・・ちょっと隣の部屋でひと眠りして来ようかな」
「それがいいわ。パパの酔いが醒めるまで、私がちゃんと川崎君の相手をしているから」
「・・ああ、頼む」
佳美と川崎を残した和彦は、ふらふらした足取りで玄関を出ると、隣り合わせた部屋のドアを鍵で開けた。
つづく…
「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る
十四
和彦はさりげなくバルコニーを確認した。
バルコニーの手すりは、高さ一メートルほどのアルミ製で、隣室との境は、プラスチック製の避難用間仕切りで遮られている。
手すりを乗り越えて外を伝えば、易々と隣室から忍び込めるつくりになっていた。
「いやん、高いところはお尻がムズムズしちゃう」
佳美は逃げるようにリビングへ戻った。
後を追って和彦は、バルコニーのサッシを閉めてカーテンを引いた。
(よし)
佳美に気づかれぬように、カーテンを閉める際、和彦はわざと僅かな隙間を残しておいた。
むろん計画通りの細工だった。
風呂から川崎が戻ってきて宴会が始まった。
高山家での酒盛りと変わらず、佳美と川崎から疎外された和彦は、ぐいぐいと焼酎をロックであおった。
「飲み過ぎよ、パパ」
心配そうな顔の佳美が、和彦からグラスを取り上げた。
「ふん、大丈夫だよ・・ちょっとトイレへ行ってくる」
ソファから立ち上がった和彦は、わざと酔ったように足許をふらつかせた。
「危ない。ダメよ、昼間からずっと飲んでいるんだもの」
「そうですよ、課長。二三時間寝てから続きをやりましょう」
佳美と川崎は、申し合わせたように和彦を部屋から追い出そうとした。
「そうだな・・ちょっと隣の部屋でひと眠りして来ようかな」
「それがいいわ。パパの酔いが醒めるまで、私がちゃんと川崎君の相手をしているから」
「・・ああ、頼む」
佳美と川崎を残した和彦は、ふらふらした足取りで玄関を出ると、隣り合わせた部屋のドアを鍵で開けた。
つづく…
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