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『人外境の花嫁』四.黄昏時の掠奪者(十一)

『人外境の花嫁』 

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四.黄昏時の掠奪者 (十一)

でも山奥に定住しても、もう箕つくりだけじゃ生きていけなかった。猫の額みたいな畑を耕しても、とても家族が飯を食うほどは稼げなかった。

母ちゃんは一人で大阪へ出て働いた。

でもね、麻美が言う通り、小学校も出ていない母ちゃんに、会社の仕事なんかできっこないじゃないか。

流れ流れてさ。

都会の生活に疲れた母ちゃんは、十年以上前かな、三十歳を過ぎてまた故郷に帰ったんだよ。

そこで父ちゃんと再会した。

ああ、父ちゃんのことは昔から知っていたよ。

子供の頃、母ちゃん達の仲間に加わったテキヤでね。

知らないかい、テキヤ。

ああ、フーテンの寅さんみたいな商売さ。

たまたま立ち寄った山里の縁日で、ヨーヨーの屋台を出していてね。

テキヤを辞めて、母ちゃん達について来たんだよ。

母ちゃんは子供だったから、その時は何とも思わなかったけど、大阪から帰ると父ちゃんは溶け込みした村の長になっていた。

頭のいい人でね、母ちゃんは子供の頃から父ちゃんが好きだったのかもしれないね。

母ちゃんは父ちゃんと夫婦になった。

でも父ちゃんは仲間の違う女と結婚していたからさ、母ちゃんは麻美を身籠ったけど、身を引いて東京へ流れてきたんだよ。

他人のものに手を出さない、それが山の民の掟だからね。

うん、お前の父ちゃんはまだあの山里で暮らしているはずだ。

お前が大きくなったら、会いにいったらいい。

大人になった麻美を父ちゃんに見せてあげな。

きっと父ちゃんはお前を優しく迎えてくれるだろうよ。

つづく…

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『人外境の花嫁』四.黄昏時の掠奪者(十二)

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四.黄昏時の掠奪者 (十二)

麻美はバルコニーで頬杖をついたまま、小さくため息を漏らした。

(・・母ちゃん)

夕焼けは徐々に赤紫色へと移ろい、夜の帳が歓楽街に命を吹き込もうとしている。

母はそれから間もなく亡くなった。

心筋梗塞だった。

麻美が小学校から帰ると、母はシミーズ姿で三面鏡の前で倒れていた。

麻美は独りぼっちになった。

身寄り頼りのない麻美は、養護施設で心を開かない暗い青春を送った。

そして施設を出てからは、母と同じ水商売の世界へ身を投じたのだった。

麻美は呟いた。

(ずっと独りぼっちだった・・)

身寄りはない。

男達に熟女ソープ嬢とチヤホヤされるうちはいい。

だが麻美には、心から愛してくれる男性も、心の底から寄り添いたいと願う男性もいなかった。

無縁死。

日本では身元不明や生き倒れの死者が、年間三万二千人もいると言う。

行旅死亡人として処理される彼等は、その大半が飢餓死と凍死であるらしい。

他人事ではない。

あと数年もすれば、秋月のソープランドを辞める日が来る。

そこから麻美は何を頼りに生きるのか。

共白髪となるまで、麻美を愛してくれる伴侶は現れるのか。

(もう独りぼっちは嫌っ!)

麻美は再びため息をつくと、ネオンが煌めき始めた横浜の夜景を背に、独りぼっちの部屋へ戻って行った。

つづく…

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『人外境の花嫁』四.黄昏時の掠奪者(十三)

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四.黄昏時の掠奪者 (十三)

麻美はソファに身を埋めた。

「きっと父ちゃんは、お前を優しく迎えてくれるだろうよ」

母の声が蘇る。

母が今生きていれば六十五歳になる。

母が子供の頃、テキヤだった父と初めて出会ったと言う。

ならば父は母より十歳以上年上のはずだ。

血は水よりも濃い。

(父はまだ生きているかもしれない)

人生には必ず屈折点がある。

独りぼっちで生きてきた麻美は、三十年以上も放ったらかされた父親に初めて会ってみたいと思った。

だが父の住まいどころか、その名前もわからない。

麻美はサイドボードから、古めかしい一枚の封筒を取り出した。

幼い頃、母の遺物を片づけていた時に、偶然に三面鏡の引き出しから見つけたものだった。

表書きは、大阪の住所と母の名が日本語で書かれている。

裏には足立寛三とのみ記されていた。

消印は雨に滲んだのか、昭和四十八年としか読みとれなかった。

そして封筒の中に納まる便箋には、不思議な文字が描かれていた。

それは見たこともない絵文字だった。

母のメモ

これはおそらく足立寛三という人物から、大阪へ出稼ぎに出ていた母に宛てた手紙に違いない。

母はこの手紙を見て、大阪から山里へ戻ろうとしたのではないだろうか。

つづく…

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『人外境の花嫁』四.黄昏時の掠奪者(十四)

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四.黄昏時の掠奪者 (十四)

麻美は昭和五十年生まれだから、母が故郷へ戻って父親と再会するのもその頃だ。

ならば足立寛三という人物が、麻美の父親なのだろうか?

後生大事にしまっていた手紙。

だがそこまでは断じ切れない。

足立寛三なる人物が、大阪水商売時代の贔屓客である可能性も十分ある。

やはり鍵はこの絵文字だった。

漢字の成り立ちは絵文字だったと言われるが、それに似ていないこともない。

或いは何かの暗号であろうか。

仲間のことを喋れば殺されると母は言っていた。

それでこのような絵文字を通信手段に用いていたのか。

いずれにしても、この絵文字が麻美の父を知る唯一の手掛かりだった。

その解読を頼むため、麻美は降矢木の許へ立ち寄った。

だが焼餅焼きのアルバイト娘に邪魔されてしまったのだ。

降矢木は麻美の得意客である。

だが明らかに変な客でもあった。

金を払ってソープへ遊びに来たのに、マットの上で熟睡して、何もしないで帰ることがよくある。

裸になった麻美を無視して読書に耽ることもあれば、麻美の男性遍歴をずっと聞いていることもある。

とにかく変人だった。

だがその博識ぶりは驚異的で、勉強が得意でなかった麻美には、まるで百科事典が歩いているように思えた。

(今度また降矢木先生が店へ来た時に頼めばいいか・・)

麻美はソファに座ったまま、絵文字の入った封筒をテーブルの上に置いた。

不意に玄関のチャイムが鳴った。

「白クマ印の宅急便です」

「は~い」

麻美は軽くコンコンと頭を叩いて気持ちを切り替えると、サイドボードから印鑑を出して玄関へ向かった。

つづく…

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『人外境の花嫁』四.黄昏時の掠奪者(十五)

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四.黄昏時の掠奪者 (十五)

玄関のドアを開けると、宅急便屋のユニフォーム姿をした二人の男が、大きなダンボール箱を抱えて立っていた。

「あら、御苦労さま」

大画面の液晶テレビでも入っていそうな段ボール箱が、二人掛かりで玄関の中へ運び込まれた。

「誰からかしら?」

貼られた伝票の送り主を見ようとして、麻美がダンボール箱に手を置くと、意外にもそれは僅かな力で軽く傾いた。

「空箱?」

「はい、麻美様にお入り頂く箱です」

猿のような顔をした小柄な男がにやりと笑うと、目にも止まらぬ動きで麻美の背後へ回った。

「うぐっ」

背後から口を白い布で塞がれた麻美は、強烈な薬品臭にむせそうになった。

「麻美様、手荒な真似をして申し訳ございません。アヤタチ様のご命令ですのでお許し下さい」

意識が朦朧とする中、麻美は猿顔の男がそう語るのを耳にした。

「な、なに・・?」

崩れ落ちていく体を二人の男に抱えられた麻美は、体と脚を持ち上げられてダンボール箱の中へ押し込められた。

光が閉ざされる。

どうやら箱に押し込められたまま、外へ運び出されているらしい。

麻美は微かな揺れを感じながら、急速に意識を失っていった。

つづく…

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プロフィール

紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご挨拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。               
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臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
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だが彼が探し求めていたものは、 競走馬の名誉でも栄光でもなかった。ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
『プリン』を読む

作 品 紹 介
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