『独りぼっちの部屋』 ・・・第十二章
『独りぼっちの部屋』
第十二章
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古河家が建つ高台のお屋敷町から、三十分ほどゆるやかな坂道を下ると、半ば暗渠になった汚いどぶ川が流れている。
東京都T区F町。
その細長い谷地に沿って、小さな店が立て込んだ昔ながらの商店街がある。
土曜日の昼下がり、隆正は肉屋から漂うコロッケの匂いを嗅ぎながら、酒屋で買ったビール缶を片手に、懐かしい佇まいを残した店先を冷やかしていた。
金物屋、瀬戸物屋、豆腐屋、お茶屋、帽子屋など、今ではあまり見かけない商店が軒を連ねている。
そして裏通りには、庭のない狭小住宅と木造トタン外装のアパートが群をなし、人が一人通れるぐらいの路地が入り組んでいた。
その雑然とした風景は、かつて住んでいた横浜の下町にどこかよく似ていた。
隆正は一軒のアパートに足を踏み入れた。
骨董品級の木造二階建てで、安っぽい外づけの鉄階段が二階へ通じている。
カンカンと音を立てて隆正は階段を上がった。
二階の外通路には扉が二つ並んでいる。隆正が手前の201号室を開けようとした時、誰かが階段を上がってくる音がした。
ラフなジーンズ姿の若い男と中年の女だった。
「こんにちは」
男はニヤッと笑って隆正に挨拶した。
202号室に住む大学生だった。
女も男の背中に隠れて軽く会釈した。
「やあ、今日はいい天気だね」
隆正はありきたりな挨拶を返しながら、連れている女の様子を窺った。
三十代後半ぐらいだろうか、地味な容貌と出で立ちで、左手の薬指に結婚指輪を嵌めている。
だが隆正はそれ以上のことは詮索せず、鍵を開けて201号室に入った。
つづく…
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そして裏通りには、庭のない狭小住宅と木造トタン外装のアパートが群をなし、人が一人通れるぐらいの路地が入り組んでいた。
その雑然とした風景は、かつて住んでいた横浜の下町にどこかよく似ていた。
隆正は一軒のアパートに足を踏み入れた。
骨董品級の木造二階建てで、安っぽい外づけの鉄階段が二階へ通じている。
カンカンと音を立てて隆正は階段を上がった。
二階の外通路には扉が二つ並んでいる。隆正が手前の201号室を開けようとした時、誰かが階段を上がってくる音がした。
ラフなジーンズ姿の若い男と中年の女だった。
「こんにちは」
男はニヤッと笑って隆正に挨拶した。
202号室に住む大学生だった。
女も男の背中に隠れて軽く会釈した。
「やあ、今日はいい天気だね」
隆正はありきたりな挨拶を返しながら、連れている女の様子を窺った。
三十代後半ぐらいだろうか、地味な容貌と出で立ちで、左手の薬指に結婚指輪を嵌めている。
だが隆正はそれ以上のことは詮索せず、鍵を開けて201号室に入った。
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