『独りぼっちの部屋』 ・・・第十一章
『独りぼっちの部屋』
第十一章
小枝子の裸身に魅力がないからではない。
子供を産んでいない肢体は、若い頃と変わらぬ曲線美を保っていた。
小ぶりだが正円錐形に近い乳房には、薄桃色の上品な乳首がつんと上を向いている。
ウエストの鋭角な括れから、きゅっと引き締まったヒップへと続くフォルムは、豊穣でありながら流れるように滑らかだった。
そして贅肉のついていない純白の下腹部には、淡く繊細な逆毛が、気品のあるコントラストを鮮やかに描いていた。
隆正はバルコニーから庭を見下ろした。
白い裸形の女神像が、その均整のとれた肢体を惜しげもなく日の光に晒している。
隆正はその裸身を小枝子に重ねた。
完璧な肢体を誇るヴィーナス像に、淫らな性欲を抱く男がいるだろうか。
小枝子の美しい肢体が放つ気品は、隆正に劣情を催す隙さえ与えようとしなかった。
淫欲を抱くこと自体が罪悪感に思えてならなかった。
だがいくら上品な美身でも、小枝子が淫らに身悶えてくれれば、隆正の劣情は燃え盛るに違いない。
ところが小枝子は美しいマネキンだった。
いくら激しく愛撫を施しても、決してシーツを乱して歓喜することはなかった。
しかしそれは矛盾でしかない。
隆正は淫らではない小枝子を望んで結婚したのだ。
隆正は心の中で懊悩した。
(あの日の母のように・・)
聖母に潜んでいた淫らな性が、今も隆正の肉体に強烈な爪痕を残していた。
少年の日に知った悪魔こそが、今も隆正を魅惑して止まずにいるのだ。
壁から聞こえる卑猥な悪魔の喘ぎ。
その淫らさを恐れて小枝子を選んだが、隆正が本当に求めているのは、実は淫らな悪魔との交接だったのかもしれない。
初夏の緑が隆正の鼻腔を満たした。
豪邸と美しい妻。
だがその裏には、劣等感と満たされぬ淫欲があった。
隆正は日々追い詰められていく恐怖を感じていた。
(俺の居場所は・・)
隆正はねっとりと首筋に汗をかいているのに気づいた。
庭をわたる爽やかな薫風が、不自然な造り物めいて感じられた。
あの猫の小便臭い路地裏が懐かしかった。
隆正が振り返ると、そこには潤んだ瞳を悲しげに投げかける小枝子がいた。
つづく…
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小枝子の裸身に魅力がないからではない。
子供を産んでいない肢体は、若い頃と変わらぬ曲線美を保っていた。
小ぶりだが正円錐形に近い乳房には、薄桃色の上品な乳首がつんと上を向いている。
ウエストの鋭角な括れから、きゅっと引き締まったヒップへと続くフォルムは、豊穣でありながら流れるように滑らかだった。
そして贅肉のついていない純白の下腹部には、淡く繊細な逆毛が、気品のあるコントラストを鮮やかに描いていた。
隆正はバルコニーから庭を見下ろした。
白い裸形の女神像が、その均整のとれた肢体を惜しげもなく日の光に晒している。
隆正はその裸身を小枝子に重ねた。
完璧な肢体を誇るヴィーナス像に、淫らな性欲を抱く男がいるだろうか。
小枝子の美しい肢体が放つ気品は、隆正に劣情を催す隙さえ与えようとしなかった。
淫欲を抱くこと自体が罪悪感に思えてならなかった。
だがいくら上品な美身でも、小枝子が淫らに身悶えてくれれば、隆正の劣情は燃え盛るに違いない。
ところが小枝子は美しいマネキンだった。
いくら激しく愛撫を施しても、決してシーツを乱して歓喜することはなかった。
しかしそれは矛盾でしかない。
隆正は淫らではない小枝子を望んで結婚したのだ。
隆正は心の中で懊悩した。
(あの日の母のように・・)
聖母に潜んでいた淫らな性が、今も隆正の肉体に強烈な爪痕を残していた。
少年の日に知った悪魔こそが、今も隆正を魅惑して止まずにいるのだ。
壁から聞こえる卑猥な悪魔の喘ぎ。
その淫らさを恐れて小枝子を選んだが、隆正が本当に求めているのは、実は淫らな悪魔との交接だったのかもしれない。
初夏の緑が隆正の鼻腔を満たした。
豪邸と美しい妻。
だがその裏には、劣等感と満たされぬ淫欲があった。
隆正は日々追い詰められていく恐怖を感じていた。
(俺の居場所は・・)
隆正はねっとりと首筋に汗をかいているのに気づいた。
庭をわたる爽やかな薫風が、不自然な造り物めいて感じられた。
あの猫の小便臭い路地裏が懐かしかった。
隆正が振り返ると、そこには潤んだ瞳を悲しげに投げかける小枝子がいた。
つづく…
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