『独りぼっちの部屋』 …第十章
『独りぼっちの部屋』
第十章
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デザートにさしかかった時、不意に義母が小枝子に尋ねた。
「ところであなた、今年何歳になるの?」
「来月の誕生日で三十八歳よ」
「あら、もうそんな歳だったの? そろそろ子供のことを考えないと手遅れになるわね」
「お母様・・」
小枝子は義母の言葉を遮ろうとした。だが義母は、構わず眼鏡の奥から鋭い目線を隆正に投げかけた。
「隆正さん、困りますよ。あなた達の代でこの古河の血を絶やしたら」
「・・は、はあ。ご心配をおかけします」
隆正はまたナイフとフォークを置いて頭を下げた。
そんな夫を庇うように、小枝子は母親へ声を荒げて抗弁した。
「お母様、せっかくのランチなのに、隆正さんを責めるのは止めて下さい。子供をつくるかどうかは、私達夫婦のプライベートな問題です」
義母は不満な顔を隆正に向けたまま、それ以上は何も言おうとしなかった。
義父は口を閉ざして無関心を装っていたが、そのポーカーフェイスは、同じ境遇の隆正を哀れんでいるようにも見えた。
跡継ぎの話は、毎週繰り返される隆正への拷問だった。
江戸時代、『嫁して三年子なきは去る』と、石女の嫁は虐げられてきた。
跡継ぎを見届けたい親の感情は、時代が移っても変わらない。
男に生まれた隆正だが、名家へ婿養子で入っただけに、小枝子以上に子孫へのプレッシャーを感じていた。
気まずい昼食が終わると、隆正と小枝子は二階自室のリビングへ戻った。
「あなた、ごめんなさい」
「い、いや・・君が謝る必要はない。お義母さんの気持ちはもっともなことだよ」
それだけ呟くと、ソファで俯く小枝子を置いて、隆正は太陽が燦々と降り注ぐバルコニーへ出た。
隆正も小枝子も不妊症ではない。
子供ができない原因は二人の性生活にあった。
世間で言うところのセックスレスだった。
結婚して七年、二人が閨を共にするのは年に一度か二度しかなかった。
(小枝子に罪はない)
それは小枝子の裸身を前にして、隆正が淫欲の萎えるのを何度か経験したからだった。
その再発を恐れるあまり、隆正は小枝子の体に手を伸ばすのを躊躇うようになっていた。
つづく…
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「ところであなた、今年何歳になるの?」
「来月の誕生日で三十八歳よ」
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「お母様・・」
小枝子は義母の言葉を遮ろうとした。だが義母は、構わず眼鏡の奥から鋭い目線を隆正に投げかけた。
「隆正さん、困りますよ。あなた達の代でこの古河の血を絶やしたら」
「・・は、はあ。ご心配をおかけします」
隆正はまたナイフとフォークを置いて頭を下げた。
そんな夫を庇うように、小枝子は母親へ声を荒げて抗弁した。
「お母様、せっかくのランチなのに、隆正さんを責めるのは止めて下さい。子供をつくるかどうかは、私達夫婦のプライベートな問題です」
義母は不満な顔を隆正に向けたまま、それ以上は何も言おうとしなかった。
義父は口を閉ざして無関心を装っていたが、そのポーカーフェイスは、同じ境遇の隆正を哀れんでいるようにも見えた。
跡継ぎの話は、毎週繰り返される隆正への拷問だった。
江戸時代、『嫁して三年子なきは去る』と、石女の嫁は虐げられてきた。
跡継ぎを見届けたい親の感情は、時代が移っても変わらない。
男に生まれた隆正だが、名家へ婿養子で入っただけに、小枝子以上に子孫へのプレッシャーを感じていた。
気まずい昼食が終わると、隆正と小枝子は二階自室のリビングへ戻った。
「あなた、ごめんなさい」
「い、いや・・君が謝る必要はない。お義母さんの気持ちはもっともなことだよ」
それだけ呟くと、ソファで俯く小枝子を置いて、隆正は太陽が燦々と降り注ぐバルコニーへ出た。
隆正も小枝子も不妊症ではない。
子供ができない原因は二人の性生活にあった。
世間で言うところのセックスレスだった。
結婚して七年、二人が閨を共にするのは年に一度か二度しかなかった。
(小枝子に罪はない)
それは小枝子の裸身を前にして、隆正が淫欲の萎えるのを何度か経験したからだった。
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