『独りぼっちの部屋』 …第七章
『独りぼっちの部屋』
第七章
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古河家は二世帯住宅になっている。
一階が義父母の、二階が隆正と小夜子の住まいだった。
普段は別々に暮らしているが、休日はこうして昼食を共にするのが常になっていた。
小夜子の父は大学教授で、隆正と同様、古河家の婿養子だった。
家にいても寡黙で、部屋に篭って研究に没頭していることが多い。
一方直系の母は、生け花の師範をする傍ら、古河家の不動産を一手に切り盛りしていた。
義母が小枝子に話しかけた。
「来週は本家の法事でしょう。これから隆正さんの礼服を銀座へ仕立てに行きますよ」
「え、どうして? フォーマルなら持っているけど」
「厭ね、あんな安物じゃ駄目よ。ちゃんとした紳士服の店でオーダーしないと」
「でも・・」
「私達がプレゼントするから、お金の心配なんかしないの。ねえ、隆正さん。親族の手前、みすぼらしい格好では、あなたも肩身が狭いわよね」
「・・は、はあ・・有難うございます」
隆正はナイフとフォークを置き、作り笑いを顔に浮かべて頭を下げた。
自前の礼服は数万円、義母はおそらく一桁違う高級品を仕立てるつもりに違いない。
こみ上げてくる屈辱を抑えるように、隆正はテーブルの下で拳を握り締めた。
名家に婿養子で入ったとは言え、義父と違って隆正はしがないサラリーマンだった。
ほとんど着る機会のない礼服に、数十万円も出費する余裕などあるはずがなかった。
だが義母に悪意はない。
本心から隆正を案じてくれていた。
ただ何事にも金銭感覚が一桁違うのだ。
隆正は幼年から染みついた貧乏人の卑屈さ故に、侮蔑されている意識が拭い切れなかった。
つづく…
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普段は別々に暮らしているが、休日はこうして昼食を共にするのが常になっていた。
小夜子の父は大学教授で、隆正と同様、古河家の婿養子だった。
家にいても寡黙で、部屋に篭って研究に没頭していることが多い。
一方直系の母は、生け花の師範をする傍ら、古河家の不動産を一手に切り盛りしていた。
義母が小枝子に話しかけた。
「来週は本家の法事でしょう。これから隆正さんの礼服を銀座へ仕立てに行きますよ」
「え、どうして? フォーマルなら持っているけど」
「厭ね、あんな安物じゃ駄目よ。ちゃんとした紳士服の店でオーダーしないと」
「でも・・」
「私達がプレゼントするから、お金の心配なんかしないの。ねえ、隆正さん。親族の手前、みすぼらしい格好では、あなたも肩身が狭いわよね」
「・・は、はあ・・有難うございます」
隆正はナイフとフォークを置き、作り笑いを顔に浮かべて頭を下げた。
自前の礼服は数万円、義母はおそらく一桁違う高級品を仕立てるつもりに違いない。
こみ上げてくる屈辱を抑えるように、隆正はテーブルの下で拳を握り締めた。
名家に婿養子で入ったとは言え、義父と違って隆正はしがないサラリーマンだった。
ほとんど着る機会のない礼服に、数十万円も出費する余裕などあるはずがなかった。
だが義母に悪意はない。
本心から隆正を案じてくれていた。
ただ何事にも金銭感覚が一桁違うのだ。
隆正は幼年から染みついた貧乏人の卑屈さ故に、侮蔑されている意識が拭い切れなかった。
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