『色褪せぬ薔薇』・・・第十八章
『色褪せぬ薔薇』
第十八章
秀明は花束を枕元に置いた。
葉子が好きだった真紅の薔薇だった。
「ありがとう・・山下課長から、お見舞いに来てくれるって、携帯でメールもらって、楽しみにしていたの・・」
体を起こそうとする葉子を秀明は押し留めた。
「無理するなよ」
「でも寝たままだと、あなたの顔が、よく見えないから・・」
ベッドの横にあったクッションを枕元に置き、秀明は紙切れのように軽い葉子の上半身を抱き起こした。
「辛くないか?」
秀明は葉子の顔を見つめた。
「ええ・・やだ、そんなに見つめないで・・お化粧したんだけど、久しぶりだから、どうも上手くいかなくて・・」
葉子は痩せこけた頬に薄くファンデーションを塗り、乾いた口唇にルージュを引いていた。
死を間近にしても、葉子は秀明の前で女として振る舞おうとしている。
その健気な姿に、秀明は湧き上がる涙を堪えるためにあちこち病室を見回した。
明るい茜色に染まった病室には、ところ狭しとブーケのような薔薇の花束で埋め尽くされていた。
秀明は首を傾げた。
剣弁高芯咲きの花形は生花そのものだが、鮮やかな青や濃い紫の花色は、かつて葉子から教えて貰った薔薇にはあり得ないものだった。
「変な薔薇だなあ・・生花みたいだけど、色が本物じゃないしなあ・・」
「うん、この花は、プリザーブドフラワーって言うの。私がつくった造花よ」
「造花? しかし本物の花にしか見えないけどな」
「うん、プリザードって言うのはね・・」
覚束ない口調だったが、葉子は嬉しそうに説明を始めた。
プリザーブドフラワーとは、脱水脱色した生花を染色して乾燥させた造花らしい。
生花のような瑞々しさが数年に亘って持続するため、魔法の花として近年非常に人気があるフラワーアレンジメントらしい。
葉子は枕元から紙切れを取り出した。
「これ、私がつくった名刺。あなたに、渡そうと思って・・」
もう造花すら造れない痛々しい手で、葉子は名刺を秀明に手渡した。
『フラワーコーディネーター 駒木葉子 花束・ブーケ等(生花、プリザーブド)ご用命受けたまわります』
秀明はじっとその名刺を見入った。
「一緒に、お花をやっている友達と、お店を、始めたの・・もう結婚式とか、注文もきているのよ・・」
「そ、そうか・・フラワーアレンジメントは葉子の昔からの夢だったからな」
つづく…
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「無理するなよ」
「でも寝たままだと、あなたの顔が、よく見えないから・・」
ベッドの横にあったクッションを枕元に置き、秀明は紙切れのように軽い葉子の上半身を抱き起こした。
「辛くないか?」
秀明は葉子の顔を見つめた。
「ええ・・やだ、そんなに見つめないで・・お化粧したんだけど、久しぶりだから、どうも上手くいかなくて・・」
葉子は痩せこけた頬に薄くファンデーションを塗り、乾いた口唇にルージュを引いていた。
死を間近にしても、葉子は秀明の前で女として振る舞おうとしている。
その健気な姿に、秀明は湧き上がる涙を堪えるためにあちこち病室を見回した。
明るい茜色に染まった病室には、ところ狭しとブーケのような薔薇の花束で埋め尽くされていた。
秀明は首を傾げた。
剣弁高芯咲きの花形は生花そのものだが、鮮やかな青や濃い紫の花色は、かつて葉子から教えて貰った薔薇にはあり得ないものだった。
「変な薔薇だなあ・・生花みたいだけど、色が本物じゃないしなあ・・」
「うん、この花は、プリザーブドフラワーって言うの。私がつくった造花よ」
「造花? しかし本物の花にしか見えないけどな」
「うん、プリザードって言うのはね・・」
覚束ない口調だったが、葉子は嬉しそうに説明を始めた。
プリザーブドフラワーとは、脱水脱色した生花を染色して乾燥させた造花らしい。
生花のような瑞々しさが数年に亘って持続するため、魔法の花として近年非常に人気があるフラワーアレンジメントらしい。
葉子は枕元から紙切れを取り出した。
「これ、私がつくった名刺。あなたに、渡そうと思って・・」
もう造花すら造れない痛々しい手で、葉子は名刺を秀明に手渡した。
『フラワーコーディネーター 駒木葉子 花束・ブーケ等(生花、プリザーブド)ご用命受けたまわります』
秀明はじっとその名刺を見入った。
「一緒に、お花をやっている友達と、お店を、始めたの・・もう結婚式とか、注文もきているのよ・・」
「そ、そうか・・フラワーアレンジメントは葉子の昔からの夢だったからな」
つづく…
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