『色褪せぬ薔薇』・・・第十七章
『色褪せぬ薔薇』
第十七章
ベッドに寝ている葉子が小さく動いた。
秀明は無言で頭を下げた。
全身を医療器械のコードで縛られた葉子は、痩せこけた顔を秀明の方へ向けた。
「よ、吉川専務・・」
「・・よ、葉子」
二十五年前に呼んでいた名前を、秀明はやっとのことで口にした。
だが現実を目の当たりにして、秀明は凍りついたようにその場に立ち尽くした。
変わり果てた姿だった。
グラマラスな肢体を誇っていた葉子が、一回り縮んで干からびたように小さくなっていた。
「ここへ座って・・」
葉子は枕元に置かれた椅子を手で示した。
そのパジャマから覗く上腕が、ミイラのように骨と皮ばかりになっていた。
そして腹水が溜まっているのか、餓鬼のように腹だけが膨らんで見えた。
秀明は病に侵された葉子をある程度は想像していた。
だが病魔がここまで残酷だとは思ってもいなかった。
秀明は見舞いに来たことを後悔した。
かつての愛人に、痩せこけてしまった自分の姿を見られることが、葉子にとってどれほど苦痛かを考えもしなかったからだ。
秀明は涙腺が弛むのを感じながら、強張る筋肉で無理矢理笑顔をつくった。
「た、体調はどうだ? 話せるか? 具合が悪いのならすぐに帰るよ」
「ええ、大丈夫。今日はまだ調子がいい方なの・・」
相当体が弱っているのか、耳を近づけなければ聞き取れないほど、葉子の声は途切れ途切れで力なかった。
「出張で東北支社へ来たんだ。入院していると聞いたからちょっと寄ってみたんだよ。ほら、葉子が好きな薔薇の花をお見舞いに持ってきたよ」
つづく…
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「よ、吉川専務・・」
「・・よ、葉子」
二十五年前に呼んでいた名前を、秀明はやっとのことで口にした。
だが現実を目の当たりにして、秀明は凍りついたようにその場に立ち尽くした。
変わり果てた姿だった。
グラマラスな肢体を誇っていた葉子が、一回り縮んで干からびたように小さくなっていた。
「ここへ座って・・」
葉子は枕元に置かれた椅子を手で示した。
そのパジャマから覗く上腕が、ミイラのように骨と皮ばかりになっていた。
そして腹水が溜まっているのか、餓鬼のように腹だけが膨らんで見えた。
秀明は病に侵された葉子をある程度は想像していた。
だが病魔がここまで残酷だとは思ってもいなかった。
秀明は見舞いに来たことを後悔した。
かつての愛人に、痩せこけてしまった自分の姿を見られることが、葉子にとってどれほど苦痛かを考えもしなかったからだ。
秀明は涙腺が弛むのを感じながら、強張る筋肉で無理矢理笑顔をつくった。
「た、体調はどうだ? 話せるか? 具合が悪いのならすぐに帰るよ」
「ええ、大丈夫。今日はまだ調子がいい方なの・・」
相当体が弱っているのか、耳を近づけなければ聞き取れないほど、葉子の声は途切れ途切れで力なかった。
「出張で東北支社へ来たんだ。入院していると聞いたからちょっと寄ってみたんだよ。ほら、葉子が好きな薔薇の花をお見舞いに持ってきたよ」
つづく…
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