『色褪せぬ薔薇』・・・第十六章
『色褪せぬ薔薇』
第十六章
それも一週間ぐらいだと医師から宣告されていた。
山下の話では、麻薬のためにうつらうつらしている時間が多く、調子が良い時でなければ面会も難しいと言う。
秀明はプライバシーについても聞いた。
葉子は夫と離婚した後、五十四歳になる今日まで独りで生きてきた。
社内で浮ついた男の噂もなかった。
葉子の両親は疾うに他界しており、誰にも見守られることもなく、葉子は独り病魔と闘っていると言う。
秀明が病室の扉をノックしようとした時、不意に甲高いハイヒールの靴音が聞えた。玲子だった。
「吉川専務、今ならまだ新幹線に間に合います」
「私は帰らない。明日の役員会も欠席する」
「ど、どうしてですか? ご自身、今が一番大切な時期だとおわかりのはずでしょう?」
秀明は声を潜めて言った。
「それはわかっている。だが私は彼女と一緒に最後を過ごしたいんだ。今彼女から逃げたら、社長になったとしても、私は人間として一生後悔しなければならない」
秀明は目に涙を滲ませて訴えた。
事情を察した玲子はしばらく押し黙って俯いた。
「・・わかりました。会社には、過労がたたってしばらく仙台で検査入院すると伝えておきます。どうか、悔いを残されませんように・・」
「有難う」
玲子は深々と頭を下げると、再びコツコツとハイヒールの音を残して去って行った。
意を決した秀明は、ゆっくりと鋼鉄の扉を叩き、恐る恐るドアを細く開いた。
病室は窓から射し込む西日で、壁も床も燃えるような茜色に染まっていた。
部屋の中央にベッドが一つ置かれている。
そのベッドを取り囲むように医療機械が並び、無機質な信号音を間歇的に響かせていた。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
応援よろしくお願いいたします
『紅殻格子メディア掲載作品&携帯小説配信サイト』紹介
にほんブログ村 恋愛小説(愛欲) FC2官能小説 人気ブログランキング~愛と性~
第十六章
それも一週間ぐらいだと医師から宣告されていた。
山下の話では、麻薬のためにうつらうつらしている時間が多く、調子が良い時でなければ面会も難しいと言う。
秀明はプライバシーについても聞いた。
葉子は夫と離婚した後、五十四歳になる今日まで独りで生きてきた。
社内で浮ついた男の噂もなかった。
葉子の両親は疾うに他界しており、誰にも見守られることもなく、葉子は独り病魔と闘っていると言う。
秀明が病室の扉をノックしようとした時、不意に甲高いハイヒールの靴音が聞えた。玲子だった。
「吉川専務、今ならまだ新幹線に間に合います」
「私は帰らない。明日の役員会も欠席する」
「ど、どうしてですか? ご自身、今が一番大切な時期だとおわかりのはずでしょう?」
秀明は声を潜めて言った。
「それはわかっている。だが私は彼女と一緒に最後を過ごしたいんだ。今彼女から逃げたら、社長になったとしても、私は人間として一生後悔しなければならない」
秀明は目に涙を滲ませて訴えた。
事情を察した玲子はしばらく押し黙って俯いた。
「・・わかりました。会社には、過労がたたってしばらく仙台で検査入院すると伝えておきます。どうか、悔いを残されませんように・・」
「有難う」
玲子は深々と頭を下げると、再びコツコツとハイヒールの音を残して去って行った。
意を決した秀明は、ゆっくりと鋼鉄の扉を叩き、恐る恐るドアを細く開いた。
病室は窓から射し込む西日で、壁も床も燃えるような茜色に染まっていた。
部屋の中央にベッドが一つ置かれている。
そのベッドを取り囲むように医療機械が並び、無機質な信号音を間歇的に響かせていた。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
応援よろしくお願いいたします
『紅殻格子メディア掲載作品&携帯小説配信サイト』紹介
にほんブログ村 恋愛小説(愛欲) FC2官能小説 人気ブログランキング~愛と性~
theme : えっちな体験談・告白
genre : アダルト