『色褪せぬ薔薇』・・・第十五章
『色褪せぬ薔薇』
第十五章
古めかしい大学病院は、窓から差し込む西日で茜色に染められていた。
消毒薬の匂いが立ち込める病棟は、暖房が効いているのだが、どこかひんやりと冷たい空気が澱んでいる。
秀明は、真っ直ぐに続く廊下を、コツコツと靴音を響かせながら歩いた。
「吉川専務、駒木さんの病室は突き当たりの205号室です」
隣を歩く山下が、秀明の顔色を窺うように小声で告げた。
「わかった。悪いが君はもう会社へ引き上げてくれないか」
「は、はい。先ほど駒木さんには、専務が見舞いに来られることをメールしておきましたので・・」
山下は下僕のように身を屈めたまま、背後の茜色の闇へ消えて行った。
長い廊下の先に、葉子が闘病生活を送る病室の扉が見えた。
十メートルほどの直線だが、そこへは永遠に辿り着けないような距離感があった。
改めて秀明の心に、葉子から逃げた罪悪感が沸きあがってくる。
「葉子・・」
秀明は自分を勇気づけるように小さく呟いた。
冷たい靴音が止んだ。
目の前に聳え立った鋼の扉は、明らかに秀明が中へ入ることを拒んでいるように見えた。
秀明は、タクシーの中で山下から葉子の詳細を聞いた。
五年前、葉子は乳癌で半年会社を休んだ。
左乳房は切除したものの、密かに癌細胞は体の中で増殖を繰り返していた。
そして昨年、骨への転移が見つかった。
放射線治療を始めたが、すでに体中に広がった癌細胞は、医学の力では取り除くことはできなくなっていた。
もう葉子には、麻薬で痛みを和らげる治療しか残されていなかった。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
応援よろしくお願いいたします
『紅殻格子メディア掲載作品&携帯小説配信サイト』紹介
にほんブログ村 恋愛小説(愛欲) FC2官能小説 人気ブログランキング~愛と性~
第十五章
古めかしい大学病院は、窓から差し込む西日で茜色に染められていた。
消毒薬の匂いが立ち込める病棟は、暖房が効いているのだが、どこかひんやりと冷たい空気が澱んでいる。
秀明は、真っ直ぐに続く廊下を、コツコツと靴音を響かせながら歩いた。
「吉川専務、駒木さんの病室は突き当たりの205号室です」
隣を歩く山下が、秀明の顔色を窺うように小声で告げた。
「わかった。悪いが君はもう会社へ引き上げてくれないか」
「は、はい。先ほど駒木さんには、専務が見舞いに来られることをメールしておきましたので・・」
山下は下僕のように身を屈めたまま、背後の茜色の闇へ消えて行った。
長い廊下の先に、葉子が闘病生活を送る病室の扉が見えた。
十メートルほどの直線だが、そこへは永遠に辿り着けないような距離感があった。
改めて秀明の心に、葉子から逃げた罪悪感が沸きあがってくる。
「葉子・・」
秀明は自分を勇気づけるように小さく呟いた。
冷たい靴音が止んだ。
目の前に聳え立った鋼の扉は、明らかに秀明が中へ入ることを拒んでいるように見えた。
秀明は、タクシーの中で山下から葉子の詳細を聞いた。
五年前、葉子は乳癌で半年会社を休んだ。
左乳房は切除したものの、密かに癌細胞は体の中で増殖を繰り返していた。
そして昨年、骨への転移が見つかった。
放射線治療を始めたが、すでに体中に広がった癌細胞は、医学の力では取り除くことはできなくなっていた。
もう葉子には、麻薬で痛みを和らげる治療しか残されていなかった。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
応援よろしくお願いいたします
『紅殻格子メディア掲載作品&携帯小説配信サイト』紹介
にほんブログ村 恋愛小説(愛欲) FC2官能小説 人気ブログランキング~愛と性~