『風媒花』・・・第二十三章
『風 媒 花』
第二十三章
遠くで清子の声がした。
「・・あなた、あなたったら」
知彦は夢から醒めたようにぼんやりと清子を見返した。
「やあねぇ、いくら呼んでも返事をしないんだから」
「ああ、ちょっと考えごとをしていたんだ」
知彦はテーブルのビール瓶をつかむと、清子と自分のグラスに注ぎ足した。
まだ娘の香織とその恋人は現れない。
再び知彦は、窓の下を行き交う雑踏へ目を遣った。
強い風が吹いた。
店頭の幟が一斉にはためき、街路樹の枯葉が善鄰門を越えて夜空へと舞い上がった。
(風媒花・・か・・)
スギやヤナギのように、花粉の媒介を風に頼る植物を風媒花と言う。
美幸は風だった。
知彦の遺伝子は、あの夜、美幸と言う風に運び去られたのだ。
(どこまで飛んで行ったのか・・)
美幸の卵子と結合した知彦の遺伝子は、遥か遠い街で、生命として根を下ろしたのだろうか。
知彦そっくりの子供が、実の父親も知らない街で暮らしているのだろうか。
急に知彦は現実へ引き戻された。
「彼ね、パパに似ているんだ」
香織の言葉が妙なリアリティーをもって耳朶に蘇った。
慌てて知彦は清子に聞いた。
「一哉君は何歳なんだ?」
「三十か三十一歳だって聞いたけど」
「仙台で大きな会社を経営している家の一人息子だったな」
「そ、そうよ」
ぼんやりしていた知彦の急変ぶりに、清子は吃驚したように目を丸くした。
つづく・・・
『妄想の囲炉裏端・・・掲示板へ』
★『紅殻格子メディア掲載作品&携帯小説配信サイト』紹介はこちらです★
小説ランキングに参加しています。応援、宜しくお願いしますm(__)m
にほんブログ村 恋愛小説(愛欲) FC2 官能小説 人気ブログランキング~愛と性~
第二十三章
遠くで清子の声がした。
「・・あなた、あなたったら」
知彦は夢から醒めたようにぼんやりと清子を見返した。
「やあねぇ、いくら呼んでも返事をしないんだから」
「ああ、ちょっと考えごとをしていたんだ」
知彦はテーブルのビール瓶をつかむと、清子と自分のグラスに注ぎ足した。
まだ娘の香織とその恋人は現れない。
再び知彦は、窓の下を行き交う雑踏へ目を遣った。
強い風が吹いた。
店頭の幟が一斉にはためき、街路樹の枯葉が善鄰門を越えて夜空へと舞い上がった。
(風媒花・・か・・)
スギやヤナギのように、花粉の媒介を風に頼る植物を風媒花と言う。
美幸は風だった。
知彦の遺伝子は、あの夜、美幸と言う風に運び去られたのだ。
(どこまで飛んで行ったのか・・)
美幸の卵子と結合した知彦の遺伝子は、遥か遠い街で、生命として根を下ろしたのだろうか。
知彦そっくりの子供が、実の父親も知らない街で暮らしているのだろうか。
急に知彦は現実へ引き戻された。
「彼ね、パパに似ているんだ」
香織の言葉が妙なリアリティーをもって耳朶に蘇った。
慌てて知彦は清子に聞いた。
「一哉君は何歳なんだ?」
「三十か三十一歳だって聞いたけど」
「仙台で大きな会社を経営している家の一人息子だったな」
「そ、そうよ」
ぼんやりしていた知彦の急変ぶりに、清子は吃驚したように目を丸くした。
つづく・・・
『妄想の囲炉裏端・・・掲示板へ』
★『紅殻格子メディア掲載作品&携帯小説配信サイト』紹介はこちらです★
小説ランキングに参加しています。応援、宜しくお願いしますm(__)m
にほんブログ村 恋愛小説(愛欲) FC2 官能小説 人気ブログランキング~愛と性~