『愛憎の流砂』・・・第十五章
『愛憎の流砂』
※ 男の愛撫にうねる白い肌・・・
愛人に溺れる母を恨み呪う少女・・・
やがて大人になった少女は、思いもよらぬ運命に手繰られていく。
第十五章
砂・砂・砂・・
足元にはただ無尽の砂が積もっていた。
波の音が地響きのように遠く聞こえる。
そして耳を掠める風の音。
砂浜に打ち棄てられた木造の漁船が、流砂に朽ち果てた船体を半ばまで沈めていた。
昭和四十七年、九十九里浜。
長年の念願だった漁港が完成して、もう砂浜には漁師達やおっぺしの姿もなかった。
夏の海水浴を除けば、九十九里浜は、ほとんど人も近寄らない砂の人外境に姿を変えていた。
高校の卒業式を終えた美幸は、ぽつんと一人夕暮れの海辺に佇んでいた。
風に吹かれて足下の砂が削り流されていく。
少しずつ少しずつ、廃船が辿る運命と同じく、砂は足先から美幸を地の底へ引きずり込もうとした。
「嫌、もう嫌っ!」
蟻地獄の中でもがくように、美幸は細かい無数の砂粒を何度も踏みつけた。
生まれて初めて母に口答えした。
美幸が家に帰ると、母は嬉しそうに鼻歌まじりで卒業を祝う赤飯を炊いていた。
「お帰り。いい卒業式だったね」
「・・うん」
美幸は素直に頷いた。
だが派手に着飾った洋装の母親達の中、古めかしい着物姿の母はみすぼらしかった。
母一人娘一人――貧しさには慣れている。
それ故、心から卒業を喜んでくれる母を、これからは楽にさせてやりたかった。
つづく・・・
※ お知らせ ※
2月22日発売の月刊文芸誌『祥伝社・小説NON3月号』に紅殻格子作「あやかしの肌」が掲載されました。
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夏の海水浴を除けば、九十九里浜は、ほとんど人も近寄らない砂の人外境に姿を変えていた。
高校の卒業式を終えた美幸は、ぽつんと一人夕暮れの海辺に佇んでいた。
風に吹かれて足下の砂が削り流されていく。
少しずつ少しずつ、廃船が辿る運命と同じく、砂は足先から美幸を地の底へ引きずり込もうとした。
「嫌、もう嫌っ!」
蟻地獄の中でもがくように、美幸は細かい無数の砂粒を何度も踏みつけた。
生まれて初めて母に口答えした。
美幸が家に帰ると、母は嬉しそうに鼻歌まじりで卒業を祝う赤飯を炊いていた。
「お帰り。いい卒業式だったね」
「・・うん」
美幸は素直に頷いた。
だが派手に着飾った洋装の母親達の中、古めかしい着物姿の母はみすぼらしかった。
母一人娘一人――貧しさには慣れている。
それ故、心から卒業を喜んでくれる母を、これからは楽にさせてやりたかった。
つづく・・・
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