紅殻島(べんがらじま)・・・第十二章
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『 紅 殻 島 』
十二
招待されたマンションは、T市の駅前にそびえていた。
英生と雛子の新居だった。
伊勢はありきたりな赤福を手土産に、玄関のベルを押した。
「伊勢さん、待っていたわ」
「おう伊勢、早く上がれよ。いいワインが手に入ったんだ」
英生はエプロンを着け、キッチンで甲斐甲斐しく立ち働いていた。
誰もが羨む新婚家庭だった。
テーブルに着くと、独身男には眩しい手料理が並んだ。
「美味しそうだ・・雛ちゃんは料理上手だなあ・・」
雛子が運ぶ料理に、伊勢は故郷にいる母親の匂いを感じた。
「馬鹿、料理はほとんど俺がつくったんだ。雛子にはこれから筑豊の味つけを教えていくんだ」
キッチンから英生が大声を出すと、雛子はペロっと舌を出して笑った。
「あの人、食べるものにはうるさいのよ。あ~あ、私、伊勢さんと結婚した方が良かったかなあ・・」
スナックにいた頃の妖艶さは失せたが、薄化粧の柔らかな物腰が、新妻らしい初々しさを伊勢へ照射していた。
(これで良かったんだ)
焼酎党の伊勢に白ワインは甘過ぎたが、幸せそうな雛子を見ていると、涙にも似た苦くしょっぱい味がした。
伊勢はずっと雛子に惹かれていた。
英生をスナックへ連れて行ったのは、今にして思えば自殺行為だったかもしれない。
だが雛子の幸せを願えば、伊勢自身ではなく、英生と結婚した方がよかったに違いない。
雛子に未練はあるが、男らしく身を引こうと伊勢は心に決めた。
つづく・・・
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