「紅殻島」(べんがらじま)・・・(第四章)
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『 紅 殻 島 』
四
煤煙が低く垂れ込めた街中を、どろりと黒く澱んだ運河が流れている。
大都市の外れにある零細工場の街。
悪臭を放つ運河沿いには、錆びて赤茶けた町工場が軒を連ねている。
旋盤や溶接の音が四六時中騒がしい。青っ洟を垂らした子供達が、瓦礫の上でチャンバラごっこをしている。
駅前には、仕事あがりの工員目当てに、居酒屋や立ち飲み屋が密集していた。
その暗い路地裏に、安っぽい看板を掲げる場末のスナックがあった。
十年前、雛子はこの店のホステスだった。
常連客は雛子を小悪魔と呼んだ。
くりくりと動く瞳が印象的なあどけない顔立ちだが、豊かなバストとヒップを誇る肢体は、男達の欲望を叶えて余りあるほど成熟していた。
そして客を客とも思わぬ高飛車な態度は、逆に経営者に虐げられた工員達から愛されていた。
雛子は元々銀座のホステスだった。
夜の蝶として最も華やかな場所にいた雛子だが、会社の金で偉ぶる男達と喧嘩が絶えず、いつしか転々とこの街まで流れてきたのだった。
艶やかなドレスをまとった雛子は、今日を生きるのに懸命な労働者の女王になった。
「雛ちゃん、店がひけたら美味いものでも食いに行こうよ」
「あら、何を食べさせてくれるの?」
「ガード下のモツ鍋屋がいい。こってり煮込んだホルモンはたまらないぜ」
「うふふ、そんなに精力つけて、私をどうするつもりなの?」
汗と油にまみれた工員達は、一夜の夢に酔い痴れたくて雛子を口説いた。
雛子は、野卑な男達の欲望を煽りながらも、巧みに身を翻して毒牙からすり抜けていた。
つづく・・・
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