小説 「妄想の仮面」 第五章・・・
※ 小説を読まれる方へ・・・
更新記事は新着順に表示されますので小説を最初から順追って
お読みになりたい方は、左のカテゴリーから各小説を選択していただければ
第一章からお読みいただけるようになっております ※
『妄想の仮面』 紅殻格子
五. 妻の独白(二)
コンサート当日の土曜日。
「由美子、ずいぶんと念入りに化粧をしているじゃないか」
会社が休みの主人が私を冷やかします。
確かにそうかもしれません。
久しぶりに濃い目のお化粧をして、若く華やいだワンピースを身にまといました。
相手は主人の部下、清川君です。
年の離れた弟のような存在で、別に意識する必要もないのに、私は何故かドキドキと鼓動を高鳴らせていました。
私は中学・高校と女子校で過ごしました。だから男性に対して免疫がないのかもしれません。交際した男性は何人かいましたが、体を許す関係になったのは主人だけでした。
子供がいる主婦なのにおかしな話ですが、主人以外の男性と二人でデートするなんて、三十八歳のオバサンにとっては緊張するものなのです。
渋谷で清川君と待ち合わせしました。
月に二、三回は家で会っているのに、二人で並んで歩くと、改めて身長の高さに驚かされます。
「清川君、身長何センチあるの?」
「180ですよ」
「わぁ、そんなに大きかったんだ」
私が驚いて見上げると、清川君はニヤッと笑いました。
「ふふ、奥さん・・実は大きいのは身長だけでは・・」
「・・・・」
カッと顔の赤くなるのが、自分でもわかります。普段ならさらっとやり過ごすところですが、二人きりでいると、変な意識をしてしまうのかもしれません。
コンサートはとても素敵でした。
小さな会場での演奏だったので、生のサザンを間近で堪能できました。家事のこと、育児のこと、全てを忘れて私は軽快なリズムに身を委ねました。
会場の外へ出ても、まだ私は余韻に酔い痴れていました。
清川君がぼうっとしている私の手を取りました。
「これから食事でもどうですか?」
「え、でも、あの、主人が・・」
私は不意に手を握られ、しどろもどろに口ごもるばかりです。
「まだ九時、大丈夫ですよ。乗りすぎてお腹が空いたんじゃないですか?」
「・・ええ」
笑顔の清川君に連れられて、私は洒落たイタリア料理店へ行きました。 若い男女が集う高そうなお店です。
不慣れな私はどきまぎするばかりですが、清川君は堂々とエスコートしてくれました。
でもそれがちょっぴり小憎らしく思えました。私よりも十三歳も年下なのに、女の子と遊びなれているに違いありません。
「よく彼女とこんなお店に来ているんでしょう?」
「気になりますか?」
いつもと違う真剣な目で、清川君じっと私の顔を見つめます。
私は慌てて視線をテーブルに落とします。
(わ、私ったら、何を言っているの・・)
自分でも驚くしかありません。
私は清川君に嫉妬を感じたのです。
主人の部下であることも忘れて、私は清川君を一人の男として意識していたのです。
つづく・・・
ランキングに参加しています ご協力おねがいします