小説「内助の功」最終章・・・(紅殻格子)
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「内助の功」 紅殻格子
十五
愛する妻が他人の毒牙にかかる――男にとってそれほど嫉妬の焔を燃やす情景はない。
早紀は美紀の浮気話を即興で裕一にでっち上げると、翌日美紀を通じて社長の了解を取り、還暦パーティーでの芝居をプロデュースしたのだった。
つまり裕一は、最初から早紀の掌で独り相撲を取らされていたのだ。
だが裕一は早紀を憎めなかった。
早紀は美紀の悩みを解決しただけでなく、閑職で腐っていた裕一をも救ってくれた。
卑怯な禁じ手ではあるが、裕一に間違って貼られた無能のレッテルを、剥がしてくれる人と出会わせてくれたのだ。
加えて言うならば、クローゼットの中で早紀が社長にフェラしたのには、
綿密な計算が働いていた。
性の魔法が解けた後、了解したとは言え、
美紀を抱こうとした裕一は社長から不信感を買う恐れがある。
そこで早紀は、自分から社長の肉茎をくわえることで、
二組の夫婦間でのわだかまりを消し去ったのだ。
ガラス窓に白い影が映った。
「裕一君、アイスコーヒー買ってきたよ」
目映く白いワンピースを着た早紀が、両手に紙コップを持って隣に座った。
「有難う」
裕一は紙コップを受け取りながら、よく気がつく世話好きな妻に感謝した。
だが心の中ではこう毒づいた。
(買ってきてくれるのは嬉しいけど、一言何を飲みたいか聞いてくれよ)
裕一はアイスコーヒーよりビールが飲みたかったのだ。
早紀の独断癖は相変わらず治っていない。
裕一達が乗る札幌行きの搭乗時間が迫っていた。
お盆に夫婦で北海道へ旅行するのは、社長から阿寒湖近くにある別荘で、
一緒に過ごさないかと誘われたからだった。
もちろん社長が求めているのは、裕一と早紀を交えた夜の淫らな宴に違いない。
裕一はふっと笑った。
(内助の功か)
離陸する飛行機を目で追いながら、
裕一は早紀の手を取って搭乗口へ向かった。
――閉幕――