小説 「妄想の仮面」 第二章・・・
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『妄想の仮面』 紅殻格子
二.夫の独白(一)
また夢を見た。
毎晩のように同じ夢を見る。
そして毎朝、狐のお面を被った女が振り返るところで目が醒める。
フロイトの夢診断を待つまでもなく、私は自分の抑圧された欲望に気づいている。
それは、『妻が他の男に抱かれる姿を見たい』
と言う歪んだ性の衝動に他ならない。
世間で変態と蔑まれる性欲が、私の心を蝕み始めたのはいつの頃からだろうか。 記憶を辿ると、中学生の頃に観たテレビドラマのワンシーンにたどり着く。
タイトルや出演者は覚えていないが、そのシーンだけは今も鮮明に蘇ってくる。 若い夫婦が暮らすマンションに、二人の強盗が入ると言う筋立てだった。
夫婦を刃物で脅して金品を巻き上げた後、縛られた夫の前で、欲情した男達が若妻を強姦してしまう。
始めは抵抗していた若妻も、執拗な強盗二人の責めと、夫に見られている背徳から、終には体を震わせて身悶えてしまうのだ。
今思えば陳腐なストーリーだが、思春期の真っ只中にいた私は、とてつもない衝撃を受けた。 苦痛から快楽へ変わっていく女の表情。
体の悦楽に逆らえず、夫の前で犯されながらも、強盗の腰に手を回してしまう若妻。
そして信じていた妻の貞操が、女の淫らな性に蹂躙されるのを目の当たりにする夫。 私はドラマの夫に自分を投影していた。
心理的な説明はつかないが、私は心の奥底に黒い愉悦を感じていた。
それは肉体の快楽など及びもしない脳髄の痺れだった。
だがこの衝撃的な性の刻印は、高校から大学時代、社会人となって妻と出会うまで封じ込められていた。
それは青年期の健康的な肉欲だった。
私は巡り合う女体に陶酔した。
白磁の如くなめらかな肌が描く曲線美と触感。
食虫植物のように甘い芳香を放って男を捕える花弁。私は肉体の快楽に溺れ、心奥に彫られた刻印のことなど忘れていた。
妻と出会ったのも十五年前のこの頃で、私が二十七歳、由美子が二十三歳の年だった。
私は中堅製薬会社の営業マン、由美子は同じオフィスで経理として働いていた。
由美子は幼さが残るあどけない容貌ながら、乳房の豊かさが男達の目を引く女だった。 そんなナイスバディとは裏腹に、万事控え目で大人しい由美子は、男子社員から絶大な人気を誇っていた。
つづく・・・
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