小説 「妄想の仮面」 第一章・・・
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『妄想の仮面』 紅殻格子
一. 女
夏祭りの夜。
露店の灯りと人々の喧騒。
毒々しい原色に彩られたプラスチックのお面が並び、綿アメのほんのり甘い匂いがあたりを漂っている。
人混みで、私は浴衣姿の女とすれ違った。
(妻ではないか?)
私は女の後を追った。
女は縁日の雑踏を抜け、もの物寂しい神社の裏へと歩いて行く。
人気のない社殿の奥。
針葉樹が茂る深い森の中で、女は浴衣を肩から滑らせた。
闇の中、南天の月明かりに、女の真っ白い背中が浮き上がる。
その後ろ姿を私は見紛うことはなかった。
(由美子)
妻の名を呼ぼうとした時、不意に木陰から男が現れた。
男は女を背後から抱きすくめた。
月光を浴びて体を重ね合う男と女。
不安に駆られた私は、女が由美子なのか確かめようと、
そっと暗がりから抱擁する二人へ近づいた。
男の腕が巻きついた女の背中越しに、私は震える声を搾り出した。
「・・ゆ、由美子なのか?」
ゆっくりと女が振り向いた。
月明かりに女の顔が映った。
だが女は、露店で売っていた狐のお面を被っていた。
つづく・・・
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