小説 「夜香木」 第五章・・・
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「夜香木」 紅殻格子
五・
和夫と美佐江は少年に案内され、ゴルフ場と見紛うばかりの芝生の上を、温室へ向かった。
「ここは別荘ですか?」
「ええ、元々は祖父が別荘として造ったのですが、今は私がひとりで住んでいます」
「ひとり暮らし?」
「はい、通学している高校がここから近いものですから、東京の家族とは離れて暮らしています。通いの家政婦さんに食事から温室の手入れまで、一切面倒を見てもらっているんです」
「それじゃ淋しいわね」
「ええ、でも慣れましたから・・・」
「この温室は?」
「祖父の趣味です。祖父は貿易商で、南方を中心に商いをしていました。
それで少しずつ熱帯の植物を集め始めたようです」
少年のやわらかい栗色の髪が、ふわっと潮風にそよいだ。
美佐江と少年の会話を聞いているうちに、和夫達は巨大な温室の前に辿り着いた。
「どうぞお入りください」
少年に誘われて、和夫は温室の中に足を踏み入れた。
むっとする高温多湿な空気が、じんわりと肌を包んだ。
そして濃い緑の匂いが鼻腔に押し寄せてくる。
和夫は南国へ旅行したことがなかったが、密林はこんな感じだろうと思った。
「まあ素敵!」
美佐江はあたりを見回して感嘆した。
「このあたりは果樹です。パパイア・サポジラ・パンノキ・マンゴ・バンレイシ・・・」
少年は歩きながら、肉厚の様々な葉の形をした樹木を次々と指差していく。
美佐江は和夫のことなどすっかり忘れたように、ぴったりと少年に寄り添い、しきりに相槌を打っている。
和夫と美佐江は少年に案内され、ゴルフ場と見紛うばかりの芝生の上を、温室へ向かった。
「ここは別荘ですか?」
「ええ、元々は祖父が別荘として造ったのですが、今は私がひとりで住んでいます」
「ひとり暮らし?」
「はい、通学している高校がここから近いものですから、東京の家族とは離れて暮らしています。通いの家政婦さんに食事から温室の手入れまで、一切面倒を見てもらっているんです」
「それじゃ淋しいわね」
「ええ、でも慣れましたから・・・」
「この温室は?」
「祖父の趣味です。祖父は貿易商で、南方を中心に商いをしていました。
それで少しずつ熱帯の植物を集め始めたようです」
少年のやわらかい栗色の髪が、ふわっと潮風にそよいだ。
美佐江と少年の会話を聞いているうちに、和夫達は巨大な温室の前に辿り着いた。
「どうぞお入りください」
少年に誘われて、和夫は温室の中に足を踏み入れた。
むっとする高温多湿な空気が、じんわりと肌を包んだ。
そして濃い緑の匂いが鼻腔に押し寄せてくる。
和夫は南国へ旅行したことがなかったが、密林はこんな感じだろうと思った。
「まあ素敵!」
美佐江はあたりを見回して感嘆した。
「このあたりは果樹です。パパイア・サポジラ・パンノキ・マンゴ・バンレイシ・・・」
少年は歩きながら、肉厚の様々な葉の形をした樹木を次々と指差していく。
美佐江は和夫のことなどすっかり忘れたように、ぴったりと少年に寄り添い、しきりに相槌を打っている。
つづく・・・・