『人外境の花嫁』七.迷宮の案内者(七)
『人外境の花嫁』
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七.迷宮の案内者 (七)
だが秋月の忠告など、降矢木には微塵も届いていなかった。降矢木は部屋中を引っ掻き回して、一冊の本を取り上げた。
「よかった。もう本牧へ持って行ってしまったかと思ったよ」
降矢木は蔵書を保管するために、横浜の本牧にある4LDKのマンションを所有していた。
元々はそこで暮らしていたのだが、溢れる蔵書に押し出されて、今ではこの店舗で寝起きするようになっていた。
おそらくこの部屋も、あと数カ月で退去を迫られることになるだろう。
降矢木は比較的新しい冊子を捲った。
「これは明治十年に吉良義風が書いた『上記鈔訳』で、近代デジタルライブラリーのデータを印刷したものです」
降矢木はその冊子のページを捲って秋月と月絵に見せた。
『上記』
月絵は思わず大声で叫んだ。
「似ている。麻美さんの部屋にあった便箋の文字にそっくり」
「これは神代文字だよ。日本に漢字が伝来する以前に、用いられていたとされる古代文字のことだ」
「降矢木君、あの古事記だって漢字で書かれていたんだろう。それ以前の日本に文字はなかったと記憶しているのだが・・」
秋月は首を傾げた。
「ええ、だから『上記』を始めとして、神代文字で書かれていた『竹内文書』や『ホツマツタエ』など、古史古伝の類は偽書と言われているのです」
降矢木はそう答えると、『上記』について説明を始めた。
つづく…
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元々はそこで暮らしていたのだが、溢れる蔵書に押し出されて、今ではこの店舗で寝起きするようになっていた。
おそらくこの部屋も、あと数カ月で退去を迫られることになるだろう。
降矢木は比較的新しい冊子を捲った。
「これは明治十年に吉良義風が書いた『上記鈔訳』で、近代デジタルライブラリーのデータを印刷したものです」
降矢木はその冊子のページを捲って秋月と月絵に見せた。
『上記』
月絵は思わず大声で叫んだ。
「似ている。麻美さんの部屋にあった便箋の文字にそっくり」
「これは神代文字だよ。日本に漢字が伝来する以前に、用いられていたとされる古代文字のことだ」
「降矢木君、あの古事記だって漢字で書かれていたんだろう。それ以前の日本に文字はなかったと記憶しているのだが・・」
秋月は首を傾げた。
「ええ、だから『上記』を始めとして、神代文字で書かれていた『竹内文書』や『ホツマツタエ』など、古史古伝の類は偽書と言われているのです」
降矢木はそう答えると、『上記』について説明を始めた。
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