『人外境の花嫁』五．秘苑の懊悩者（十一）
『人外境の花嫁』
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五．秘苑の懊悩者 （十一）
差しつ差されつ、月絵が降矢木の奇行を金治にこぼしていると、玄関のチャイムが鳴って吉水憲治が入ってきた。
「お、親子水入らずで晩酌かい？」
俺も一杯もらおうかと、憲治はお猪口をキッチンで勝手に捜し始めた。
憲治は金治の実子である。
今年四十八歳になる憲治は、金治と亡き妻の間に生まれた一人っ子で、現在若葉会の会長を継いでいる。
お決まりの角刈りでごつい体格をしているが、月絵にとっては年の離れた優しい兄だった。
月絵は隣に座った憲治に酒を注いだ。
「どうしたの、兄貴。こんな時間に家へ来るなんて珍しいじゃない」
「ああ、ちょっと親父に報告があってな」
すでに結婚して子供もいる憲治は、近所に一戸建ての家を構えている。
金治が報告を促した。
「で、どうだった？」
「ええ、襲われた高校生三人は骨折などの重傷。誰がやったかは、まだ警察もわかっていないようです。
現場にいたホームレス達は、何も見ていなかったと証言しています」
憲治が報告しているのは、一昨日、大通り公園で起きた高校生傷害事件だと月絵にもわかった。
深夜、公園で屯していた不良高校生三人が何者かに襲われた。
襲った者は空手の有段者なのか、ほぼ一撃で高校生達の頬骨や肋骨を粉砕している。
とても素人の仕業とは思われない遣り口だった。
地元横浜、しかもこの家から一キロも離れていない公園で起きた事件を、金治は気にせずにはいられなかったのだろう。
つづく…
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紅殻格子の日記は「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に記載しています。
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今年四十八歳になる憲治は、金治と亡き妻の間に生まれた一人っ子で、現在若葉会の会長を継いでいる。
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月絵は隣に座った憲治に酒を注いだ。
「どうしたの、兄貴。こんな時間に家へ来るなんて珍しいじゃない」
「ああ、ちょっと親父に報告があってな」
すでに結婚して子供もいる憲治は、近所に一戸建ての家を構えている。
金治が報告を促した。
「で、どうだった？」
「ええ、襲われた高校生三人は骨折などの重傷。誰がやったかは、まだ警察もわかっていないようです。
現場にいたホームレス達は、何も見ていなかったと証言しています」
憲治が報告しているのは、一昨日、大通り公園で起きた高校生傷害事件だと月絵にもわかった。
深夜、公園で屯していた不良高校生三人が何者かに襲われた。
襲った者は空手の有段者なのか、ほぼ一撃で高校生達の頬骨や肋骨を粉砕している。
とても素人の仕業とは思われない遣り口だった。
地元横浜、しかもこの家から一キロも離れていない公園で起きた事件を、金治は気にせずにはいられなかったのだろう。
つづく…
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