『人外境の花嫁』五.秘苑の懊悩者 (九)
『人外境の花嫁』
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五.秘苑の懊悩者 (九)
「そんなことは忘れた」
降矢木は今もすっ呆けているが、母のことを覚えている人を捜してくれたのだろう。
怠け者で出不精の降矢木が、月絵のために方々を駆け回ってくれたのが素直に嬉しかった。
月絵は立ち直った。
高校へも登校するようになり、遅れていた学業にも必死で取り組んだ。
月絵を生かしてくれた母への感謝。
そして降矢木士朗。
週三回の家庭教師は、居眠りしたりマンガを読み耽ったりといい加減だったが、月絵は降矢木が近くにいるだけで、何故か心の安堵を感じることができた。
人が生物の遺伝子を解明できるように、神が人の運命を予言できるように、降矢木は月絵の心の中まですっかり見透かしていたに違いない。
だがそれは決して不快なことではなく、自分を理解して貰える人の存在に、月絵は母の懐に抱かれているような安心感を生まれて初めて覚えたのだった。
ずっと一緒にいたい。
だが月絵に興味の欠片もない降矢木に、淡い恋心を打ち明けるのは滑稽過ぎた。
降矢木と同じ大学を目指すことが、せめてもの片想いの告白替わりだった。
大学に合格して流した涙は、決して嬉し涙ではなかった。
家庭教師の降矢木と別れなければならない恋情からだった。
月絵は懸命に降矢木と一緒にいられる方法を考えた。
その答えが、降矢木ファーマシーでアルバイトすることだったのだ。
降矢木は渋い顔をした。
「雇ってくれなかったら、先生に処女を奪われたってパパに言いつけるからっ!」
月絵は目に涙を溜めて降矢木を脅迫した。
「・・まあ、好きにしろ」
降矢木はぽつりと答えると、ふんと鼻を鳴らして呆れた顔をした。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
人気ブログランキング~愛と性~
紅殻格子の日記は「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に記載しています。
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「そんなことは忘れた」
降矢木は今もすっ呆けているが、母のことを覚えている人を捜してくれたのだろう。
怠け者で出不精の降矢木が、月絵のために方々を駆け回ってくれたのが素直に嬉しかった。
月絵は立ち直った。
高校へも登校するようになり、遅れていた学業にも必死で取り組んだ。
月絵を生かしてくれた母への感謝。
そして降矢木士朗。
週三回の家庭教師は、居眠りしたりマンガを読み耽ったりといい加減だったが、月絵は降矢木が近くにいるだけで、何故か心の安堵を感じることができた。
人が生物の遺伝子を解明できるように、神が人の運命を予言できるように、降矢木は月絵の心の中まですっかり見透かしていたに違いない。
だがそれは決して不快なことではなく、自分を理解して貰える人の存在に、月絵は母の懐に抱かれているような安心感を生まれて初めて覚えたのだった。
ずっと一緒にいたい。
だが月絵に興味の欠片もない降矢木に、淡い恋心を打ち明けるのは滑稽過ぎた。
降矢木と同じ大学を目指すことが、せめてもの片想いの告白替わりだった。
大学に合格して流した涙は、決して嬉し涙ではなかった。
家庭教師の降矢木と別れなければならない恋情からだった。
月絵は懸命に降矢木と一緒にいられる方法を考えた。
その答えが、降矢木ファーマシーでアルバイトすることだったのだ。
降矢木は渋い顔をした。
「雇ってくれなかったら、先生に処女を奪われたってパパに言いつけるからっ!」
月絵は目に涙を溜めて降矢木を脅迫した。
「・・まあ、好きにしろ」
降矢木はぽつりと答えると、ふんと鼻を鳴らして呆れた顔をした。
つづく…
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