『人外境の花嫁』五.秘苑の懊悩者 (八)
『人外境の花嫁』
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五.秘苑の懊悩者 (八)
月絵は目を逸らした。
「で、でも・・母さんは私を連れて・・」
自殺したのだ。
一緒に生きてくれようとはしなかった。
母は月絵を巻き添えにして、現実の厳しさから逃げようとした。
水商売の女が口を開いた。
「あんたがマリーさんの娘だったの・・あたし店の先輩から聞いたことがあるよ。マリーさんは必死に娘を助けようとしたって」
意外な言葉に、月絵は思わず目を見開いて女を見た。
マリーの自殺は、当時この界隈でいろいろと噂になった。
マリーが大岡川に飛び込んだ瞬間を、今は店を辞めてしまった年配者が目撃していたと言う。
昼間の福富町に悲鳴が響き渡った。
振り向くと、マリーが赤子を抱いて、大岡川に架かる橋から飛び降りた瞬間だった。
マリーは波紋を残して暗緑色の水に沈んだが、しばらくすると子供を掲げるようにして浮かび上がった。
「この娘を・・この娘を助けて・・」
そして狂ったようにもがき泳ぐと、係留してある釣り船の舫いに赤子の服を絡ませた。
マリーは男達が川へ飛び込むのを見届けると、力尽きたのか、そのまま再び川へ沈んで行ったと言う。
女は自分の子供を強く抱いた。
「どうして川に飛び込んだかはわからないけど、最期にマリーさんはあんたを助けたい一心だったんだよ」
「母さんが・・私を・・」
声が詰まった月絵は、降矢木に抱きついてその胸に顔を埋めて泣いた。
つづく…
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人気ブログランキング~愛と性~
紅殻格子の日記は「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に記載しています。
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月絵は目を逸らした。
「で、でも・・母さんは私を連れて・・」
自殺したのだ。
一緒に生きてくれようとはしなかった。
母は月絵を巻き添えにして、現実の厳しさから逃げようとした。
水商売の女が口を開いた。
「あんたがマリーさんの娘だったの・・あたし店の先輩から聞いたことがあるよ。マリーさんは必死に娘を助けようとしたって」
意外な言葉に、月絵は思わず目を見開いて女を見た。
マリーの自殺は、当時この界隈でいろいろと噂になった。
マリーが大岡川に飛び込んだ瞬間を、今は店を辞めてしまった年配者が目撃していたと言う。
昼間の福富町に悲鳴が響き渡った。
振り向くと、マリーが赤子を抱いて、大岡川に架かる橋から飛び降りた瞬間だった。
マリーは波紋を残して暗緑色の水に沈んだが、しばらくすると子供を掲げるようにして浮かび上がった。
「この娘を・・この娘を助けて・・」
そして狂ったようにもがき泳ぐと、係留してある釣り船の舫いに赤子の服を絡ませた。
マリーは男達が川へ飛び込むのを見届けると、力尽きたのか、そのまま再び川へ沈んで行ったと言う。
女は自分の子供を強く抱いた。
「どうして川に飛び込んだかはわからないけど、最期にマリーさんはあんたを助けたい一心だったんだよ」
「母さんが・・私を・・」
声が詰まった月絵は、降矢木に抱きついてその胸に顔を埋めて泣いた。
つづく…
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