『人外境の花嫁』四.黄昏時の掠奪者(七)
『人外境の花嫁』
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四.黄昏時の掠奪者 (七)
母は昭和十六年生まれである。
戦争の混乱があったとしても、母が小学校に入学する年には、今と変わらぬ義務教育が施行されていた。
大病でもしない限り、誰もが学校へ通わなければならない時代に幼年期を送っていたはずである。
麻美は鉛筆を止めて母の背中を見た。
「ねえ、母ちゃん」
「ん、何だい?」
「・・母ちゃんはどうして小学校へ行かなかったの?」
恐る恐るだが、麻美は母の生い立ちを聞き出そうとした。
振り向いた母が、おやっと意外そうな顔をした。
「変な娘だねえ・・」
「だ、だって、母ちゃんは小学校へ行かなかったから、夜の仕事をしなくちゃいけないんでしょう?」
「・・・・」
母の顔が険しく曇った。
すぐに麻美は、子供心に母を傷つけてしまったことがわかった。
「あ、あたし・・ごめんなさい・・母ちゃんが好きだよ。母ちゃんの子供で良かったと思っているよ・・怒らないで母ちゃん・・」
慌てて麻美は、脂粉の香がする大きな背中に抱きついた。
「馬鹿な娘だねえ・・母ちゃんは学校へ行かなかったことを、恥ずかしいと思ったことなんかないよ」
母はにっこり笑って麻美の頭を撫でた。
そして今も忘れることができない不思議な物語を、幼い麻美に語って聞かせてくれたのだった。
つづく…
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紅殻格子の日記は「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に記載しています。
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四.黄昏時の掠奪者 (七)
母は昭和十六年生まれである。
戦争の混乱があったとしても、母が小学校に入学する年には、今と変わらぬ義務教育が施行されていた。
大病でもしない限り、誰もが学校へ通わなければならない時代に幼年期を送っていたはずである。
麻美は鉛筆を止めて母の背中を見た。
「ねえ、母ちゃん」
「ん、何だい?」
「・・母ちゃんはどうして小学校へ行かなかったの?」
恐る恐るだが、麻美は母の生い立ちを聞き出そうとした。
振り向いた母が、おやっと意外そうな顔をした。
「変な娘だねえ・・」
「だ、だって、母ちゃんは小学校へ行かなかったから、夜の仕事をしなくちゃいけないんでしょう?」
「・・・・」
母の顔が険しく曇った。
すぐに麻美は、子供心に母を傷つけてしまったことがわかった。
「あ、あたし・・ごめんなさい・・母ちゃんが好きだよ。母ちゃんの子供で良かったと思っているよ・・怒らないで母ちゃん・・」
慌てて麻美は、脂粉の香がする大きな背中に抱きついた。
「馬鹿な娘だねえ・・母ちゃんは学校へ行かなかったことを、恥ずかしいと思ったことなんかないよ」
母はにっこり笑って麻美の頭を撫でた。
そして今も忘れることができない不思議な物語を、幼い麻美に語って聞かせてくれたのだった。
つづく…
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