『人外境の花嫁』四.黄昏時の掠奪者(六)
『人外境の花嫁』
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四.黄昏時の掠奪者 (六)
麻美は初めて不憫という感情を持ったのは母に対してであった。
今日遊びに行った友達の家で、彼女の母親がクッキーを焼いてくれた。
父親は大きな商社に勤めていて、山手の丘に建つ立派な洋館の庭には、青々とした芝生が敷き詰められていた。
ドラマで観るような憧れの家庭。
もし麻美にも父がいたら、母は四十過ぎてまで、厚化粧して夜の街へ通わずともよかったに違いない。
否、貧しくてもいい。
家族三人で暮らせたら、決して友達を羨ましくひがむこともなかったろう。
だが物心ついた時から父はいなかった。
「なんで麻美には父ちゃんがいないの?」
幼かった頃はおそらく母を困らせたことだろう。
だが麻美の成長とともに、いつしか父の存在は母娘の間でタブーになっていった。
母は街のキャバレーで働きながら、麻美を女手一つで育ててくれている。
「お前の母ちゃんは飲み屋の女だろう」
同級生にはよく母のことで虐められた。
正装の服を持たぬ母は、父兄参観でも派手な夜の衣装と化粧で学校へ来た。
だが麻美は歯を食い縛って堪えた。
母の苦労はよくわかっていた。
母は日本語の読み書きができなかった。
見よう見真似で名前ぐらいはかけたが、新聞はもちろん、麻美の教科書すら読めないようだった。
麻美が小学校へ入学した頃、母は頻りにランドセルを撫でて呟いていた。
「あたしも小学校で勉強したかったよ」
おそらく母は、何かの事情で義務教育を受けられなかったに違いない。
読み書きすらままならない母は、体を張って生活費を稼ぐしかなかったのだろう。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
人気ブログランキング~愛と性~
紅殻格子の日記は「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に記載しています。
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麻美は初めて不憫という感情を持ったのは母に対してであった。
今日遊びに行った友達の家で、彼女の母親がクッキーを焼いてくれた。
父親は大きな商社に勤めていて、山手の丘に建つ立派な洋館の庭には、青々とした芝生が敷き詰められていた。
ドラマで観るような憧れの家庭。
もし麻美にも父がいたら、母は四十過ぎてまで、厚化粧して夜の街へ通わずともよかったに違いない。
否、貧しくてもいい。
家族三人で暮らせたら、決して友達を羨ましくひがむこともなかったろう。
だが物心ついた時から父はいなかった。
「なんで麻美には父ちゃんがいないの?」
幼かった頃はおそらく母を困らせたことだろう。
だが麻美の成長とともに、いつしか父の存在は母娘の間でタブーになっていった。
母は街のキャバレーで働きながら、麻美を女手一つで育ててくれている。
「お前の母ちゃんは飲み屋の女だろう」
同級生にはよく母のことで虐められた。
正装の服を持たぬ母は、父兄参観でも派手な夜の衣装と化粧で学校へ来た。
だが麻美は歯を食い縛って堪えた。
母の苦労はよくわかっていた。
母は日本語の読み書きができなかった。
見よう見真似で名前ぐらいはかけたが、新聞はもちろん、麻美の教科書すら読めないようだった。
麻美が小学校へ入学した頃、母は頻りにランドセルを撫でて呟いていた。
「あたしも小学校で勉強したかったよ」
おそらく母は、何かの事情で義務教育を受けられなかったに違いない。
読み書きすらままならない母は、体を張って生活費を稼ぐしかなかったのだろう。
つづく…
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