『人外境の花嫁』四.黄昏時の掠奪者(五)
『人外境の花嫁』
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四.黄昏時の掠奪者 (五)
夕焼けが母の記憶を呼び覚ます。
昭和六十年頃、麻美が小学校四年、母はおそらく四十代半ばだったろう。
横浜は本牧の裏長屋。
六畳一間の薄汚れた木造アパートで、麻美は母と二人で暮らしていた。
夕陽しか射し込まない暗い部屋。
時代から取り残された、野良猫の小便臭い路地裏が母娘の棲み家だった。
麻美が小学校から帰ると、母はいつも三面鏡に向かって化粧をしていた。
「宿題はあるのかい?」
「うん」
「なら宿題が終わってから、飯を温めて食うんだよ。母ちゃん、今夜は遅くなるかもしれないから先に寝な」
母は三面鏡の鏡に写る麻美を見ながら、パタパタとファンデーションを叩いた。
夜の女。
口には出せなかったが、麻美も幼心に薄々と母の仕事を理解していた。
(母ちゃん・・)
シミーズ姿の母は、だぶついた上腕の脂肪と染みだらけの肩を揺らして、夜目には男を騙せる厚化粧を懸命に施している。
母から目を逸らした麻美は、小さな卓袱台にノートを広げて勉強を始めた。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
人気ブログランキング~愛と性~
紅殻格子の日記は「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に記載しています。
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昭和六十年頃、麻美が小学校四年、母はおそらく四十代半ばだったろう。
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六畳一間の薄汚れた木造アパートで、麻美は母と二人で暮らしていた。
夕陽しか射し込まない暗い部屋。
時代から取り残された、野良猫の小便臭い路地裏が母娘の棲み家だった。
麻美が小学校から帰ると、母はいつも三面鏡に向かって化粧をしていた。
「宿題はあるのかい?」
「うん」
「なら宿題が終わってから、飯を温めて食うんだよ。母ちゃん、今夜は遅くなるかもしれないから先に寝な」
母は三面鏡の鏡に写る麻美を見ながら、パタパタとファンデーションを叩いた。
夜の女。
口には出せなかったが、麻美も幼心に薄々と母の仕事を理解していた。
(母ちゃん・・)
シミーズ姿の母は、だぶついた上腕の脂肪と染みだらけの肩を揺らして、夜目には男を騙せる厚化粧を懸命に施している。
母から目を逸らした麻美は、小さな卓袱台にノートを広げて勉強を始めた。
つづく…
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