『人外境の花嫁』四.黄昏時の掠奪者(三)
『人外境の花嫁』
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四.黄昏時の掠奪者 (三)
麻美は昏倒している降矢木を覗き込んだ。
「実は先生に相談があって来たんだけど」
「降矢木君に相談? まさかうちの店を辞めて、降矢木君のところで働きたいと言うのではないだろうな」
降矢木ファーマシーがリタイヤした水商売の女を店長に据えて来た経緯を知っている秋月は、麻美が言った先ほどからの弱音に不安を抱いた。
同時に月絵も、強力なライバル出現かと内心色めき立った。
麻美は笑った。
「いつかは今の仕事ができなくなると思うけど、まだ社長のお店を辞めるなんて考えていませんよお」
秋月はほっと胸を撫で下ろした。
「そうか、それならいいが・・ならば降矢木君に何の相談があるんだ?」
「調べて欲しいことがあったの。死んだ母が残した手紙なんだけど・・」
「手紙?」
「私、先月、川崎の住まいを売り払ってこの近くへ引っ越してきたでしょう」
「ああ、野毛山辺りにいい物件があったと言っていたな」
「私達の商売なんて浮世の旅暮らしだから、普段は引っ越しの荷物なんかダンボールに入れたままだけど、秋月社長と巡り合えたおかげで、今度は長居ができると思って埃を被った荷まで解いたんですよ」
秋月はうんうんと嬉しそうに頷いた。
「ところが荷を開けていたら、亡くなった母宛の古い封書が出て来たの。母が大阪にいた頃にもらった封書らしいんだけど、開けてみたら子供の落書きみたいな絵文字ばかりで読めなくて・・」
すると、推理小説好きな畠山が脇から口を挟んだ。
「へえ、暗号みたいなものですか?」
「そうかもねえ・・大事に保管してあったから、母には意味がわかっていたと思うのよ」
「今、その手紙をお持ちですか?」
「ううん、家にあるの。明日は非番だから、先生を私のマンションへお誘いして解読してもらおうと・・」
その時、麻美は鋭利な刃物に似た痛みを背中に感じた。
鬼のような月絵の視線だった。
「で、でも、お取り込み中みたいだからまた出直して来るわね」
慌てて踵を返した麻美は、そそくさと降矢木ファーマシーを後にした。
つづく…
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紅殻格子の日記は「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に記載しています。
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「実は先生に相談があって来たんだけど」
「降矢木君に相談? まさかうちの店を辞めて、降矢木君のところで働きたいと言うのではないだろうな」
降矢木ファーマシーがリタイヤした水商売の女を店長に据えて来た経緯を知っている秋月は、麻美が言った先ほどからの弱音に不安を抱いた。
同時に月絵も、強力なライバル出現かと内心色めき立った。
麻美は笑った。
「いつかは今の仕事ができなくなると思うけど、まだ社長のお店を辞めるなんて考えていませんよお」
秋月はほっと胸を撫で下ろした。
「そうか、それならいいが・・ならば降矢木君に何の相談があるんだ?」
「調べて欲しいことがあったの。死んだ母が残した手紙なんだけど・・」
「手紙?」
「私、先月、川崎の住まいを売り払ってこの近くへ引っ越してきたでしょう」
「ああ、野毛山辺りにいい物件があったと言っていたな」
「私達の商売なんて浮世の旅暮らしだから、普段は引っ越しの荷物なんかダンボールに入れたままだけど、秋月社長と巡り合えたおかげで、今度は長居ができると思って埃を被った荷まで解いたんですよ」
秋月はうんうんと嬉しそうに頷いた。
「ところが荷を開けていたら、亡くなった母宛の古い封書が出て来たの。母が大阪にいた頃にもらった封書らしいんだけど、開けてみたら子供の落書きみたいな絵文字ばかりで読めなくて・・」
すると、推理小説好きな畠山が脇から口を挟んだ。
「へえ、暗号みたいなものですか?」
「そうかもねえ・・大事に保管してあったから、母には意味がわかっていたと思うのよ」
「今、その手紙をお持ちですか?」
「ううん、家にあるの。明日は非番だから、先生を私のマンションへお誘いして解読してもらおうと・・」
その時、麻美は鋭利な刃物に似た痛みを背中に感じた。
鬼のような月絵の視線だった。
「で、でも、お取り込み中みたいだからまた出直して来るわね」
慌てて踵を返した麻美は、そそくさと降矢木ファーマシーを後にした。
つづく…
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